ミッション2 ペニシリンを作れ!

第4話 ペニシリン? いえ、カビの煮汁です



「ペニシリンを作ろう!」


「ぺに……?」

「シューヤ様、次は何をやらかすおつもりですか?」



 俺の言葉に、シュリをかばう様にして前に出たイバラさんが冷たい視線を送ってくる。

 妙だな、フラグを立てたと思ったんだが……。



「おい、秀也。ペニシリンって抗生物質だろ? 俺らに作れるのか?」



 難しそうな顔をした毒島が口を開く。

 クラスメイトもそう思ったのか、騒ぎ出す。



「精密な機械とかないと無理じゃね?」

「そもそも材料あるの?」

「さすがの秀也もそれは無理だろ」



 まったく、俺を誰だと思っているのか。

 獅子堂学園で唯一偏差値が40超えてる天才だぞ?

 医療系マンガやドラマで学習したから問題ない。

 江戸時代にタイムスリップした医者が、青カビからペニシリンを作る話を知っている。

 あれを見たから多分大丈夫だろう。

 俺は胸を張って、堂々と宣言する。



「作れる! ペニシリンの材料は食べ物に生える青カビなんだ。青カビを煮込めば、雑だけどペニシリンが出来るんだ」


「「「なっ、なんだってーー!?」」」



 クラスメイトの驚いた顔を見せるが、鬼族のみんなはきょとんとしている。

 彼女らにはペニシリン、いや抗生物質について説明せねばなるまい。



「この薬は奇跡の薬とも言われていて、負傷兵や戦傷者を感染症から救う薬なんだ。これから戦闘も増えると思うし、作っといて損はないと思う。さっそくだけど、食べ物に生えた青カビを集めたい。シュリ、手伝ってくれないか」


「それだったらアンデッドによる兵糧の襲撃でダメにされた食材がカビまみれになっていますが……」


「マジか!? 案内してくれ」


 なんてグッドなタイミングなのか。

 俺はさっそくペニシリンの開発に取り掛かった。



 ◇


「え? あの……これが薬なのですか?」


「シューヤ様、毒にしか見えませぬが……」



 シュリに案内されたゴミ捨て場でカビを採取してペニシリンを作ってみたが、やけに色が毒々しい。

 それに臭いも酷い……。

 まるでヘドロのようだ。

 ペニシリンとはこんな臭いだったのか、また一つ勉強になった。

 しかしこれを誰に試すかだよな……。



「シュリ、この辺に病気になってる悪い奴とかいない?」



 急に話を振られたシュリが目を丸くする。

 腕を組んで悩みだすシュリ。

 腕の上に豊かな胸が乗っていてとても眼福な光景だ。

 ガン見してたらイバラさんに遮られてしまった……。

 もっと見たかったのに!



「シュリ様、隣の悪徳領主はいかがでしょう?」


「ああ、奴がいましたね。シューヤ様、隣の領地を治める人間の貴族がいるのですが、これがまさに外道で領民からも恐れられています」



 ふむ、悪徳領主か。

 万が一にも失敗はないと思うが、こいつを実験台にさせてもらおう。



「よし! 早速行ってくるから地図を描いてくれないか?」


「い、今からですか? かなり警備が厳重ですけど……」



 心配そうなシュリを安心させるために、俺は満面の笑みを浮かべる。



「なぁに、俺たちは獅子堂学園のエリートだ。こんなの朝飯前さ!」



 こうして俺はクラスのみんなを誘って悪徳領主の屋敷へと潜入することにした。




 ◇ side シュリ



「行ってしまいましたね」


「ええ」



 シューヤ様とそのお仲間はペニシリンとかいう薬を持って、悪徳領主の屋敷へと向かっていきました。

 大丈夫なんでしょうか……。

 心配していると、後ろから声が聞こえました。

 振り返ると、声の主は気の弱そうな鬼の少女でした



「あのぅ、シュリ様。賢者様がカビから薬を作ってると聞いてきたのですが……」



 彼女は確か料理番の娘でしたね。

 気が小さくて戦闘はダメダメですが、料理の腕が良いため料理当番になった子です。

 珍しいですね、一体何の用でしょうか。



「どうしました? 何か問題でも?」



 私の言葉に、彼女はオドオドとした様子でか細い声を出しました。



「えっと、この地方に生える青いカビは熱を加えると毒性が爆発的に増加するんです。たぶん賢者様の知っているカビとは違う種類だと思うので、止めに来たのですが……」



 なんと! 

 やはりそうでしたか。

 あの見た目と臭いで薬のはずがありません。



「シュリ様、どうしますか?」



 イバラが心配そうに囁いてきます。

 でも問題ないでしょう。



「大丈夫です。実験台になるのは隣の悪徳領主ですし。仮に効き目があったら使ってみましょう」



 私の言葉にイバラは複雑そうな顔をしました。

 一体どうしたのでしょう?

 イバラらしくありません。

 首を傾げる私に、イバラが心配そうに口を開きました。



「いえ、彼らが薬を飲ませるだけで大人しく帰ってくる気がしなくて……」



 た、確かに!

 絶対に余計なことをしそうです。



「念のため、いつでも動けるように皆に伝えなさい」



 私の言葉に、鬼族のみんなが慌てて動き出しました。



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