第3話 喰らえ! これが俺たちの聖水だ
「秀也、そろそろ秘策を教えてくれよ」
井戸水をたらふく飲んだ毒島が口を開く。
みんなも俺の秘策を聞きたくてウズウズしてるようだ。
時間も頃合いだな。
「みんな、この前橋の下で拾ったAV覚えているか?」
「ああ、あの特殊な奴か……」
「女王様とM男たちのSMプレイだっけ? キツかったな……」
「見る前のドキドキを返してほしかったぜ……」
俺の言葉に毒島を始めとしたクラスメイトが嫌な顔をする。
たしかにアレはひどかった。
見た後に、皆でフリスビーのように学校の視聴覚室から放り投げたのを覚えている。
「あのAVでさ、M男たちが女王様のおしっこを聖水だ~! とかいって喜んでるシーンあっただろ?」
「秀也、嫌なモノ思い出させるなよ……」
毒島がげんなりした顔をする。
それはクラスの皆も同じで、女の鬼族にいたっては混乱している様子だ。
「まだ分からないのか? M男たちの言葉を思い出せ!
おしっこはな、聖水なんだよ! そしてアンデッドには聖水が効く。
俺たちはこれより放尿しながら敵陣へと向かうんだ!」
「「「な、なんだってー!」」」
クラスのみんなが驚愕する。
反対にシュリ達はぽかんとしている。
やれやれ、彼女たちにはレベルが高すぎたかな。
「秀也、お前……」
毒島が震えた声で呟く。
「お前本当に天才だな!」
そいいって俺の肩をバシバシと叩いてくる。
その言葉を皮切りにクラスメイトの賛辞が続く。
「すげーな、秀也」
「まさに秘策だ!」
「俺、思いつかなかったぜ!」
「悔しいけど、お前がナンバーワンだ」
ふっ、この天才にかかれば造作もないことさ!
クラスメイトの賛辞を聞きながら、俺はシュリとイバラに向き合う。
「シュリ、そんなわけだからあとは任せろ」
「は、はぁ……」
「え? 冗談ですよね、賢者様……?」
シュリは話に着いてこれなかったようでポカンとしていて、イバラは引きつった笑みを浮かべている。
そんなにハイレベルな話だったろうか……?
まあいい。
そろそろ敵が布陣を整える時間帯だ。
俺はクラスメイトに向き合うと、大きく声を張り上げた。
「みんな、これより敵を迎え撃つぞ! おしっこ大作戦の開始だ!!」
「「「オオオッーーー!!!」」」
クラスの士気はかなり高い。
だというのにシュリ達はお通夜のような雰囲気だ。
どうしたのだろうか?
「シュリ様……」
「すみません、イバラ。私たちはここまでのようです」
失礼な!
まあいい、結果を出せば問題ないだろう。
俺はクラスメイトを引きつれ、砦の外へと向かった。
◇ side 不死王の部下シルヴィア
「なんだ、あいつらは……?」
鬼族の砦から出てきた少年たちを見て、そんな呟きが漏れた。
角が生えていないから鬼族ではない。
歩き方を見るにそれなりに訓練されているようだが……。
傭兵でも雇ったか?
それにしてはずいぶん若い。
彼らは等間隔に、横へと広がっていく。
何かの魔法を使う気か?
いや、彼らからは魔力をまったく感じない。
一体何をするつもりなのか……。
念のために様子を見る私の前で
少年たちがズボンから粗末で子汚いモノを取り出し、こちらに向けて来るのを見て、私は思わず怯んでしまった。
「何だ! 一体何を……!?」
そして次の瞬間、私と私の部下は声を失った。
彼らは私たちの目の前で放尿し始めたのだ!
そしてその状態で、チョコチョコと小走りで走り寄ってくる。
「うおおぉぉっ! 美人な姉ちゃんに見られると、なんか興奮するぜ!」
「ああ! 小便、いや、聖水の放出角度も上がるってモンよ!」
「俺たちの聖水を食らえ!!」
何だ? 彼らは一体何を言っているのだ!?
私は数百年も生きてるが、こんなに動揺したのは初めてだ。
私の部下もそれは同じなのか、レイスや骸骨騎士が驚き戸惑っている。
皆、声には出さないが「え? 何コレ? 何なの? 攻撃していいの?」といった心の声が聞こえてきそうだ。
攻撃か、それとも罠や策を警戒して撤退するか。
私がそう考えた時だった。
『シルヴィアよ、聞こえるか?』
「不死王様!?」
偉大なる不死王様のお声が脳裏に届いた。
緊急事態でも起きたのだろうか?
何事かと私は身構える。
『今、お前の目を通して現場を見ている。一度撤退するのだ』
「撤退するのですか? あの、彼らは行為は一体……? 私には理解が出来なくて」
『何かの罠であることは明白だ。あれでこちらの気を引き、何かを狙っているのだろう。そもそもこちらの勝ちは決まっているのだ。無理をする必要はない』
「わ、分かりました! 直ちに撤退します!」
私は慌てて部下に撤退の合図を出すと、一目散に逃げ出した。
◇ side 千堂秀也
「おお! 秀也の秘策どおり敵が逃げてくぜ!」
「ションベンって聖水だったんだな!」
「さすが秀也だぜ!」
作戦通りアンデッド軍団は逃げていき、クラスのみんなが喝采を上げる。
まったく自分の頭脳が怖くなる。
ふと視線を感じ、砦の方を見ると、シュリと目が合った。
ウインクをしてやると、シュリは慌てて目を反らしてしまう。
恥ずかしがり屋め。
きっと俺の知将っぷりに心を奪われてしまったのだろう。
まったく、モテる男もつらいよ。
俺はふっと笑みを浮かべると、丸出しのイチモツをズボンの中にしまった。
~次回予告~
秘策でアンデッド軍団を追い返した秀也。
だが様々な困難が秀也達を待ち受けている。
頑張れ秀也! 負けるな秀也!
おしっこ大作戦で女性鬼との恋愛フラグはバッキリ折れたけど
決してめげるな! 挫けるな!
次回、秀也が薬作りに着手する。
作るのはあの有名な抗生物質、ペニシリン。
秀也たちは青カビを集めるのだが……
次回「ペニシリン? いえ、カビの煮汁です」
この天才の活躍、絶対見てくれよな!
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