第32話事情

俺は廊下を歩いていた

二日目の朝のお経もなんとか耐えしのいだところだった


「しかしお経は辛いな~」


まだ二日目だがもうしんどいし聞きたくない

疲労感も半端ないので気分転換に外へ出る

神社の外は人けがなかった。人形供養にくる人もそうそういないらしい


「はぁ~……深呼吸~」


俺は大きく息を吸った


「おじゃる!」


勢いよく叩かれ息を吐くタイミングを失う

そしておもっいきりむせた


「ゴホッ、ゴホッ。なんだ……ゴホッ、よ!」

「おじゃる!おじゃる!」


お内裏様がしゃくで叩いてくる、遠慮なんてものはない


「おじゃる!おじゃる!」

「わ~!!辞めろ!また武力行使すんぞ!」

「おじゃる?……ならやめる」


普通に話せるのかよ!


「まったく……なんなんだよ」

「いや、たまたま目にはいったから」

「はぁ!?」

「いいじゃないか、別に。今までさんざんいい思いしてきたんだろ?」


いや、それでも嫌だろ


「そんなに俺が嫌いか」

「と?言うと?」

「市に殺されかけた」

「……」

「キャサリンも様子がおかしかったし。なんなんだよ、まったく」

「……そうか」


お内裏様はそう言うと黙ってしまった


「……なんかあるのか?」

「別に?人形界隈にはよくある話さ」

「よくある?」

「そうだよ?持ち主より長生きするのは別に不思議なことではないし」


ひょうひょうと答えるお内裏様


「あんたもそうなのか?」

「そうだよ?私の持ち主……主人は天命をまっとうした。そしてそれがゆえに私はここにいる」


もともと女の子の厄払いのために買われるお雛様、その女の子が天命をまっとうした後なら処分されるのも頷ける


「いい方だった。私をよく可愛がってくれた。」

「……そうか。なんか意外だな」

「そうかい?ここにいる人形の全てが呪われているなんて思わないでくれ。だいたいここの人形供養と言うと役目を終えた人形達が集まる終着点のひとつなのだから」

「あ、はい。すみません……」


謝った、言われてみればそうなのか?この人形神社のことはあまり知らないが

そしてふと思う


「市やキャサリンもそうなのか?」

「持ち主が死んでいるという点では同じだよ」


そうなのか。少しあいつらの事がわかった気がした


「聞くかい?市達のこと」

「あいつらのプライベートを勝手に探ったらダメだろ?」

「真面目だな、下世話な人形かと思った」

「おい!!」


なんだよ!失礼なお内裏様だな!


「君はなぜここにいるんだい?」

「まあ当然の疑問だよな……」

お内裏様に説明する俺


「ああ……そうなのかい。大変だね」


他人事だ


「ひとつアドバイスをあげる」

「えっ?」

「神主はバカではない。何か考えがあるんだろう」

「除霊にか?」

「ああ。あの人はいろんな人も人形も見てるからね」


そんなものなのか


「君の未来がいいものであることを祈るよ」


去っていくお内裏様、残される俺


「未来ねえ……?」


俺はピンとこなかった


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