第30話闇の中の本心

俺は市のあとをついていった


「なぁ、市」

「……」


市は無言だった


「はぁ……」


帰り道を案内してくれると言ってからさっきからこの調子だ。俺が何をした?

俺は辺りを見渡す。真っ暗になった神社はなんとも言えない空気とかもし出し空間を作っていた

俺は何処を歩いている?俺は何処に向いている?俺は何処を目指している?

……わからない、まさに今の現状そのものだ


「ついたぞ」


市が初めて喋り、止まる


「ここ……がか?」


何も見えない、たぶんだが何もない


「そこをまっすぐじゃ」

「わかったよ」


そこは案内してくれないのか、少し不満だ


「まぁいいか……」

「はよう行きなさい。京介」

「へいへい」


俺は前に進む。でも本当に進んでいるのか?

わからない、真っ暗だから。

そもそもこの選択が正しいのか?

俺はこのまま何もせずに帰っていいのか?

逃げているだけじゃないのか?

これで里美や両親に顔向け出きるのか?


「……」


足が止まる。俺、今行っている事は正しいのか?


「どうする……俺……」


足が止まりまた動き出そうとする。すると


「!?」


一瞬目がくらむ。数秒遅れて光が顔にあたったとわかる


「なんだよ!」


俺は後ずさる、すると、目の前スレスレをタイヤが通る


「……!?」


そして気づく、車が目の前を横切ったんだと


「あっ、あぶね~」


ため息をついた。危なかった、一歩間違えたら俺は……

……俺は?まさか……

頭の中にいやな考えがよぎる

背中がゾクゾクする

体が震えながらもわずかな期待を込めて後ろを振り向く


「い、市……」


振り絞った、声を。嘘だよな?市


「なんじゃ、運がいいのう」


市は笑っていた、とても暗い笑みだった。周りが暗いのにその顔がはっきりと見えた。だから余計に怖かった


「そ、それは……どういう……意味だ」


恐る恐る聞く俺を嘲笑うように言う


「わざとじゃよ?無論」


全身の血の気が引く

俺は身体の震えを止められない

わざと?わざと??わざと、だと??


「つまり、お前は俺を……」

「ああ、運がいいのう」


市が嗤う、顔が青ざめる


「なぜ!」


俺は叫んだ


「気に入らんからじゃよ」


あっさり言う


「お前、愛されてるじゃろ。持ち主に」

「えっ」

「見ればわかる。服の差し入れまで貰って」


市は続ける


「いいのう、いいのう。愛されておる。儂にはおらん、そんな人間。愛されておるのう」

「……嫉妬か?」

「そうかもしれんし、そうじゃないかもしれんな」


口の端が上がる。低い笑い声がもれる


「……俺が気に入らないんだな」

「さっさと消えてくれんか?不快じゃ」


そう言い残すと市は去ってしまった

残された俺、ふともといたところを見るとキャサリンが立っていた


「……お前も気に入らないってか?」

「……うらやましい」

「えっ?」

「うらやましい、その服。私ずっとこの服なのかしらん」


キャサリンは詰め寄ってくる

俺は思わず後ずさる


「うらやましい、うらやましい、うらやましい……」


ジリジリ詰め寄るキャサリン

なんか様子おかしくね?勘がそう告げる


「うらやましい、うらやましい、うらやましい……」

「じゃ、じゃあな、キャサリン」


そう言い終わるかキャサリンが手を伸ばす、すんぜでかわす


「……!」


俺は走った、ただひたすら。キャサリンが小さくなるまで


「うらやましい、うらやましい、うらやましい……」


キャサリンはずっとうわ言のように呟いていた


ここはヤバい、俺にとって良くない場所だ


俺はそう感じながら居間へと戻った


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