第29話差し入れ

「うっ……くっ……」


俺は耐えていた


「南無妙法蓮華経~」

「うっ……ぐっ!」


気を抜くと意識が飛ぶ。この場合意識が飛んだら成仏、つまりサヨナラだ


「南無妙法蓮華経……はい、おしまい」

「っはぁはぁはぁ……」


俺は耐えた、これが一週間続くのか?

俺は意識を保ったまま里美のところへ帰れるのか?


「うーん、しぶとい。でもまだ初日だし……こんなもんか」

「……」


くそっ、なんか悔しい。てかマジで大丈夫なのか?俺


「あ、そうそう。君にお土産」


神主はそういうと袋を取り出した


「里美さんからだ。君の新しいお洋服だよ」


こんなときまで服かよ!俺は突っ込んだ

見てみると青色のような緑色のような着物と黒髪のおかっぱウィッグだった


「へぇ綺麗な浅葱色の着物だね。人形用でこういうのがあるのか」


……浅葱色あさぎいろって言うのか、ってか勝手に出すなよ!


「じゃ、着せようか」

「は?」

「えーと、後ろにスナップボタンが付いているのか?ここから脱がせられそうだ」

「えーと?いやいや」

「どれ」


神主は俺をつかむ


「うわっ!」

「暴れたかったら暴れていいんだよ~。ただし呪いの人形確定だけどね」


脅迫だよ!それ!!


「じゃ、着せようか」

「……」


俺は大人しく着せ替えさせられた



「なんじゃ、姿が変わっとる」

「本当かしらん」


市とキャサリンが話しかけに来た

神主は俺を着せ替えるだけ着せ替えてどこかへ行った


「似合っとるぞ、京介」

「俺はミズハだ」

「まだ高橋京介じゃ」


そうなのか?自信がない


「暇じゃろ?遊ばんか?」


どうやら遊びのお誘いのようだ


「止めとく」


俺は断った


「何故じゃ!!」

「なんか、疲れた……」


供養されるのがこんなに疲れるとは、しかもお着替えも疲れる。撮影会の次に疲れる

着物の袖を揺らしながらため息をついた


「根性無いかしらん」

「うるせーよ」

「ふふん」


なぜか和やかになった。そういえばマリン達はどうしてるのだろうか……


「早く帰りたいな~」


俺はポツリと呟いた


「……帰れるぞ?」

「えっ?」


市が笑っていた


「帰れるぞ?帰るか?」

「マジかよ……」


俺は驚いた。そんな抜け穴あるのか。バグ技というかなんか


「帰る」


俺は答えた。

マリン達も気になるし、何よりあの祈祷は辛い。帰れるなら帰りたい


「ならついてくるのじゃ」

「かしらん」


俺は新しい着物の裾を引きずりながら市の後について行った

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