第6話

「ああ、なに言ってんだ?

 全部に決まっているだろうが。

 こんな腐れ野郎、俺様に不敬な言葉を吐くような馬鹿を入れた、競売の責任者の金も回収するんだよ。

 金に名前なんて書いていないから、とりあえず全部集めればいいんだよ。

 巻き込まれた奴は、競売の責任者に請求すればいいんだよ。

 文句を言うような奴は、俺様が不敬罪で殺してやるよ」


 最後の言葉で、全てが決まってしまいましたね。

 文句を、いえ、嘆願しようとしていた大貴族も大商人も、凍り付きました。

 バーン王太子なら必ず言葉通りにすると、彼らも知っているのです。

 私も、逃亡中のバーン王太子の言動で思い知りました。

 バーン王太子は気の好い暴君なのです。


 真逆の事を言っているようですが、言葉通りです。

 気の好い所と暴君の所が混在するのが、バーン王太子の性格なのです。

 弱い者に頼られると、気の好い所が表面に現れます。

 それ以外の者が相手だと、傍若無人そのものです。

 弱い者でも、分かり易く頼らないと気がついてもらえないので、バーン王太子の気の好い所に気がついていない者も多いでしょう。


「殿下。

 この男と友人知人の屋敷を押収しませんか?

 殿下に不敬を働くような者達です。

 もしかしたら謀叛を企んでいたかもしれません。

 直ぐに証拠品を押収しておかないと、ここにいない仲間が隠蔽してしまいます」


 私はバーン王太子に略奪をけしかけました。

 バーン王太子の評判が更に悪くなるかもしれませんが、仕方ありません。

 これも、売られてしまった聖女候補を救い出すためです。

 まず間違いなく、腐れ貴族の屋敷に聖女候補が閉じ込められています。

 彼女達を探しだす事ができれば、バーン王太子の評判をよくすることも可能です。


「そうか、そうだな。

 ここは急いで謀叛の証拠を探さなければならん。

 おい、さっさと金の回収をしないか!」


 バーン王太子が近衛騎士と近衛徒士に命じます。

 近衛騎士隊長が私を睨みつけていますが、それもしかたありません。

 彼からすれば、私はバーン王太子を煽って評判を落とすような行動をさせる、君側の奸以外の何者でもないのですから。


 でも、私には私の目的と理想があります。

 それを成し遂げるためなら、誰であろうと利用します。

 それはバーン王太子も同じです。

 ただ、バーン王太子には、まだまだ働いてもらわなければいけません。

 だから、バーン王太子の評判は私にも大切なのです。

 バーン王太子の評判がよくなるように、全力を尽くします。

 少しだけ我慢してくださいね。

 今日中に評判がよくなるようにします。

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