第5話

「ほう?!

 カーゾン王国の聖女候補の方々が、この国に来ておられるのですか?

 初めて知りましたよ」


 糞ジョージの隠れ家から奪ってきた美術品を競売する会場で、多くの大商人や大貴族に挨拶してまわります。

 反応は色々ですが、なかには私達がバーン王太子に救われたのを知っていて、知らないふりをしている者もいます。

 上手く表情や態度を隠している者もいますが、私には明々白々です。


 腹立たしい事ですが、以前に愛人や奴隷として聖女候補を競売で買った、下劣極まりない者もいるのでしょう。

 絶対に助け出します。

 バーン王太子を利用してでも、苦しんでいる聖女候補を助けます。

 必要ならば、聖女の力を使う事も躊躇いません!


「そういえば、今度の競売品は、ジョージ王太子殿下の秘宝だそうだね。

 いったいどうやって手に入れたのだね?

 相手は一国の王太子殿下だよ。

 あまり無茶をすると、国同士がもめるような大事になってしまうよ」


 背後から急に男が話しかけてきました。

 脂ぎった厭らしそうな顔の男が、ニヤニヤと笑っています。

 どうやらこの男は、糞ジョージと結託しているようです。

 バーン王太子がここにいるいうのに、こんな不用意な発言をするなんて、バカとしか思えないですね。


「ああ?!

 何を言っているんだ、お前は!

 俺様がいるのに、他の国ともめるのが大事になるわけがないだろうが!

 舐めた事言っていると、ぶち殺すぞ!」


「ヒィィィィイ!

 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!

 ゆるしてください、どうかゆるしてください、命ばかりはお助け下さい!」


「ああ?!

 命を助けてくれだと?!

 だったら詫びを形に現せよ。

 何を分からないふりをしている。

 金だ、金だ、金。

 金を払ったら許してやる。

 おい、お前ら。

 この不敬なバカがここに持ってきた金を全部没収しろ」


 競売の会場が凍り付いています。

 バカがバーン王太子の逆鱗に触れたことで、とばっちりを受けるかもしれないと、戦々恐々としているのでしょう。

 バーン王太子の近衛騎士と近衛徒士が、急いで金の没収に動きました。

 可哀想ですが、この競売場にいる全員が、主催者に預けた金を全額没収されるかもしれません。


「バーン殿下。

 この男の友人知人、紹介状を書いた者の財産も没収しますか?」


 近衛騎士隊長が恐ろしいことを口にします。

 でも、これはバーン王太子を抑えようとしているのでしょう。

 全員の金を奪うのではなく、この男の関係者だけにしてくださいという、近衛騎士隊長の献策です。

 問題はバーン王太子がその献策に気がつくかどうかです。

 


 

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