第4話

「今回の件は本当に助かりました。

 心からお礼を申し上げさせていただきます。

 これは下劣なジョージの隠れ家から持ちだしたお宝の半分でございます。

 どうぞお納めください」


 何とか無事にソモンド王国に逃げ込むことができて、バーン王太子殿下の王太子宮でひと息つくことができてから、お宝をバーン王太子に献上する事にしました。

 出せと言われてから出すよりも、その方が心証がよくなり、ソモンド王国での生活が過ごしやすくなるだろうと、逃亡中に聖女候補達で話し合っていたのです。

 案の定バーン王太子はご機嫌です。


 豪胆で乱暴で脅迫すら平気で行うバーン王太子ですが、弱者に頼られると断れない人の好さがあるのです。

 ある面だけを見れば、好漢とも言えるところがあるのです。

 だからその性格に頼ることにしたのです。

 逃亡中からバーン王太子を頼り、褒め称えたのです。


 完全な嘘偽りを口にして、阿諛追従したわけではありません!

 逃亡中のバーン王太子の武勇は、褒め称えるにふさわしい大活躍でした。

 群がるように襲いかかってくる糞ジョージの手先を、たった一騎で粉砕撃退してくださったのです。


 もっとも驚いたのは、遠くから放たれた信じられないような剛矢を、斧槍のひと振りで弾き返してしまった事です。

 遠くから剛矢を放ったのは、遠矢の武神とも称されるアポロン神の加護を受けた、カーゾン王家の誰かでしょう。

 もしかしたら、糞ジョージ本人が放ったのかもしれません。


 私は次々と剛矢を放つかと思いました。

 ですが放たれた剛矢はたった一矢でした。

 たぶんですが、バーン王太子に恐れをなして逃げ出したのだと思います。

 強敵が現れたことに嬉々としたバーン王太子が、愛馬を駆って射点に向かっていったので、死の危険を感じたのでしょう。

 その逃げ足の速さに感心してしまいました。


 逃亡中のバーン王太子の武勇を語ったら、きりがありません。

 多くの聖女候補が、物語の中に出てくる王子様のように憧れてしまうほどです。

 私ですら好意を持ってしまうほどです。

 まあ、そんな話はどうでもいいことです。

 私達がこれからどう生きていくかの方が、とても大切です。


「そうか、そうか、そうか。

 苦しゅうないぞ。

 受け取ってやろうではないか。

 絵画などの美術品には興味がないから、高値で買いそうな貴族や大商人に売ってやるから、半分を献上すればよいぞ」


 やはりこう言いますか。

 バーン王太子の趣味趣向だと、美術品には興味がないと思っていました。

 貴族や大商人を集めるというのなら好都合です。

 他国で生き延びるには、人の縁は大切にしなければいけません。

 バーン王太子をおだてて紹介してもらいましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る