第2話

「殺せ、殺せ、殺せ!

 こうなったら皆殺しにしてしまえ!

 女を確保しろ。

 金もあるだけ全部奪うのだ!」


 やはりこうなってしまうのですね。

 噂通り、短気で怒りっぽくて何事も暴力で解決しようとする。

 ですが、噂通りなら、武勇を重んじる好漢で、怖がる弱者には怒りがしぼんでしまう、気のいい所もあるはずです。

 悪人に買われるくらいなら、この人についていった方がいいでしょう。


「みんなこの人についていくのです。

 見た目も行動も怖そうに見えますが、本心はとても優しい人です。

 弱い女に乱暴するような人ではありません。

 このままこの国に残ったら、また売られてしまいますよ。

 生き延びたいのなら、自分の足で立ってこの人についていくのです!」


 ここが正念場です。

 バーン王太子が我々聖女候補を優先してくれるのか、それとも金銀財宝を優先するのか、判断ができません。

 この場所に連れてきている配下の数は少ないようです。

 配下が金銀財宝で手一杯だと、聖女候補はここに置いて行かれるかもしれません。

 そんな事になったら、今度こそあの殺された犯罪者の同類に売られてしまいます。


「ほう!

 なかなか度胸があるではないか。

 見直したぞ!」


「お褒めに預かり光栄でございます。

 私達聖女候補は、大なり小なり魔法が使えます。

 目先の金銀財宝よりも価値があります。

 どうかソモンド王国に連れて行ってください」


 バーン王太子がニヤリと笑われました。

 何を考えておられるのでしょうか?


「なんならジョージ王太子を殺してやろうか?

 あいつを殺せばこの国から逃げ出す事もないだろう」


 やはり弱者には優し人のようですね。

 ここはもっと弱みを見せて保護欲をそそりましょう。


「ジョージ王太子を殺していただけたら、それはありがたい事です。

 今まで売られてきた聖女候補の恨みも晴らされるでしょう。

 ですが、ジョージ王太子を殺していただいても、悪人と愚者が残ります。

 ジョージ王太子のおこぼれに預かっていた悪人。

 ジョージ王太子の悪行を見逃していた愚者。

 そんな者達が治める国に残っても、地獄の日々が繰り返されるだけです。

 どうかソモンド王国に連れて行ってください」


「そうか、なら自分の脚でついてこい。

 ついてきた奴は助けてやる。

 俺の王太子宮で、侍女や女官として雇ってやるぞ」


 単純明快ですね。

 何も考えることなく即答してくれます。

 もう少し罠とかを怪しむように諌言したいところですが、今はこの単純明快な性格がありがたいです。


「さあ!

 みな覚悟を決めるのです。

 私の言ったことは理解できましたね?

 ここにこのまま残ったら、先ほどのこの子のように、大勢の人が見ている前で犯されてしまいますよ!」

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