癒しの聖女は愚かな王太子に隣国に売られてしまいました。今更守護神が疫病神と知らなかったと言っても戻りません。
克全
第1話
「さあ、どうだ、いい女だろう。
その上に癒しの技を使うエイル神の聖女なのだ。
そんなハシタガネでは売れないぞ、もっと金を積め」
聖女の私が、まるで奴隷のように競りにかけられています。
何と下劣な王太子なのでしょう。
国が莫大な費用と時間をかけて育てた聖女候補を、自分の遊興費のために他国に売るなんて、信じられない愚行です。
私以外にも、聖女候補が次々と檀上に登らせられます。
肌もあらわな衣装を無理矢理着せられて、煽情的なポーズまで取らされます。
これでようやく分かりました。
毎年多くの聖女候補が村々から集められ、決して帰ってこない理由を。
本当の聖女を探しているわけではないのです。
聖女の名をつけて付加価値つけ、奴隷として売るのです!
「いやぁあああああ!
お母さん!
帰して、お家に返して!」
まだ十歳にもなっていない幼い子です。
そんな子を無理矢理裸にしようとしています。
まさか?!
この場で犯すつもりではないでしょうね?
さすがにそのような凶行を見過ごすわけにはいきません!
「止めんか、下郎!
この場を何だと思っている?!
聖女が欲しい国の代表が集まる場所だぞ!
これ以上見苦しい真似をするようなら、この剣で叩き切るぞ!」
貴公子然としたイケメンが偉そうな事を言っています。
お前もここにいる以上、目糞鼻糞の同類だと分かっているのでしょうか?
「はぁあ!?
なに言ってやがるんだ、このバカが!
この場にいる時点で、お前も同罪なんだよ!
金で本物の聖女かどうかも怪しい女を買っている、人買いなんだよお。
どこのお坊ちゃんか知らんが、聖人君主ズラするのは虫唾が走るぜ!」
「そうか、だったらここ死ね!」
短気な男でした。
見た目は麗しい容姿をした美丈夫なのですが、とても怒りっぽいのでしょう。
それは炎のような赤い目と赤髪に性格が現れているのかもしれません。
巨大な斧槍を縦横無尽に振り回し、犯罪者の頭目にしか見えない、幼児愛好家を一撃で粉砕してしまいました。
慌てて止めようとしたこの国の近衛騎士や近衛徒士も、頭目の敵を討とうとした犯罪者の手下も、ものの見事に粉砕されてしまいました。
「俺はソモンド王家の王太子バーンだ!
文句の有る奴はかかってこい!
皆殺しにしてくれる!」
この男でしたか!
この男が噂に名高い、代表的な武闘神トール様に守られた、ソモンド王国の王太子バーン殿下ですか。
噂通りの強さなら、ジョージ王太子の犯罪に加担するような近衛騎士や近衛徒士、犯罪者ギルドの護衛が歯の立つ相手ではありません。
でも、噂通りなら、カッコよくお終いにはならないのでしょうね。
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