第64話若党坂田力太郎熊吉11

「殿様、藤七郎の殿様。

 その話、あっしに任せて頂けませんか。

 殿様と一緒に廻って思ったんですが、門前町の連中は殿様に感謝せず、これで所場代なしで店が出せると、陰で笑っている連中が多くいます。

 このまま殿様の名前で仕切ると、全然金にならないと思っていたんですよ。

 あっしの知り合いの悪党にやらせた方が、いい金になると思うんです」


 やれ、やれ、伊之助らしい考えだ。

 心底感謝して、わずかでも心の籠った礼金を出すなら、損をしてでも手助けするが、口先だけの感謝でお礼をけちるような人間は、情け容赦せずに叩く。

 我は人などそういう者だと思っているが、伊之助にあるべき人の姿あるのだろう。

 まあ、任せてみよう。


「分かった、全ての伊之助に任せよう。

 銀次郎と車殿には伊之助から話せよ」


「へい、任されました」


 車殿との話し合いをして、相良田沼家上屋敷に戻り、伊之助にも全てを話したら、伊之助が献策してきたので、全てをを任せた。

 伊之助ならば抜かりなくやってくれるだろう。

 そう思っていたのだが、翌日には新たな問題を作ってきやがった。


「殿様、藤七郎の殿様。

 浅草の縄張りが欲しい連中が、殿様の闇討ちを画策してやがるんです。

 それを防ぐために、果たし合いの高札を掲げてやりました。

 版元にも知らせて、読売を作らせました。

 これで連中も闇討ちができなくなります」


 やれ、やれ、である。

 男を売るのが商売でもある博徒や香具師は、正々堂々とと申し込まれた果たし合いからは、逃げる事はできないそうでだ。

 逃げれは二度と博徒や香具師では生きていけないらしい。

 堂々と果たし合いを申し込んだ相手を闇討ちすることも、できないそうだ。

 しかも、博徒や香具師が果たし合いに応じたくなる、利も与えている。

 果たし合いで勝った相手に、浅草の利権を渡すと約束しているのだ。


「それで、我は何時誰と戦えばいいのだ」


「殿様、それじゃあ、連中は果たし合いに応じませんよ。

 連中が勝てそうな弟子を代理に出すから、連中も果たし合いに応じるんです」


 やれ、やれだ。

 伊之助は我の考え以上の事をやってくれる。


「では誰に任せればいいと考えているのだ」


「力太郎ですよ。

 力太郎熊吉の名を売るのに丁度いいのではありませんか。

 銀次郎様や虎太郎様だと、相手が強くても、立見の名にかけて果たし合いの前に負けを認める訳にはいかないでしょう。

 でも熊吉なら、果たし合いの前に負けを認める事もできます」


 確かに伊之助の言う通りだ。

 伊之助と一緒に並んで話を聞いている熊吉も、納得しているようだ。

 多分何か悪だくみをしているのだろうが、熊吉も納得しているのならいいだろう。


「分かった、伊之助の好きにすればいい」

 

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