第63話若党坂田力太郎熊吉10

「分かりました。

 奉行所の意向は分かっています。

 五百人斬りの立見殿を敵に回して、余所者を入れる気はありませんよ。

 それに、銀次郎殿の頼みを無碍には出来ないですな。

 浅草の非人は立見殿に協力しましょう」


 やれ、やれ、これは困ったな。

 銀次郎兄上は非人とつながっていたのか。

 いや、罪人の市中引廻しや処刑場での雑役、木戸番をしている番太は非人が務めているので、町奉行所の与力同心とは密接な関係なのだ。

 銀次郎兄上が厄介叔父となるまで部屋住みを続けられたのは、非人の娘との色恋が関係したいたのかもしれない。


「それでは、車殿の所で香具師の場所割も所場代も徴収して頂けるのですね」


「いや、それは出来ない。

 そんな事をすれば、御公儀の御叱りを受けてしまう。

 人手は立見殿の方で手配してもらいたい。

 いや、新たな人間を探して召し抱えてくれと言うわけではない。

 非人を日雇いして、やらせている体裁を整えてくれればいい。

 御様御用に使う死骸を集めるのと同じようにして下さればいいのです」


 確かに車殿の言われる通りだ。

 今迄は金太郎兄上を通じて内々でやっていた事だが、御様御用に使う死骸は、南町奉行所仮牢雑事をやってくれている、次郎兵衛殿に集めてもらっていた。

 これからは金太郎兄上を通さずに、我が直接やればいい。

 その時に、香具師の場所割や所場代の徴収をやる非人を召し抱えればいい。


「分かった。

 我がやらせてもらおう」


「いえ、それは待っていただきたい。

 藤七郎殿や銀次郎殿がやっては、何かあった時に言い逃れができない。

 若党か中間にやらせてもらいたい。

 立見家に方々には、色々と後ろ盾になってもらいたいことがあるのです。

 その為には危険な事からは離れていて欲しい」


 車殿がそう言われるのなら、そうした方がいいのだろう。

 こういう、ややこしいことは、伊之助に任せればいいい。


「いや、待ってください、殿、車殿。

 立見家に後ろ盾になってもらうのなら、若党や中間を関係させるのは不味い。

 そう言う事ならば、全く繋がりのない人間に仕切らせた方がいい。

 忠誠心のある者か、金で割り切る人間を使った方がいい。

 その者に二代目新右衛門を名乗らせた方がいい」


 ふむ、銀次郎兄上の言う通りだ。

 車殿が我になって欲しいという後ろ盾が気になるが、銀次郎兄上の妻子と無関係とは思えない。

 そうでなければ、銀次郎兄上が必死な表情で反対するはずがない。

 恐らく非人を良民に戻す時の請け人になって欲しのだろう。

 それが兄上に妻や子供なら、尚更他人事ではない。


「分かった、銀次郎。

 我も心当たりを探すが、銀次郎も心当たりを探してくれ。

 車殿も心当たりの者がいたら御教えいただきたい」

 

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