第22話姉妹遭難11

「心配しなくていいぞ、藤七郎。

 今回の件は誰が聞いても白河藩の方が悪い。

 家中取締がなっておらん。

 相当の金額を払わねば話が纏まらんことは、白河公も分かっておろう」


 昨晩に引き続いて御老中の田沼様の屋敷をお尋ねして、瓦版をお見せした。

 これ以上白河公を追い詰めて、意地になられては泥沼の殺し合いになりかねない。

 そう心配していたのだが、御老中には先が見えておられるようだ。

 我には分からない力関係や事情があるのかもしれない。


「それよりも、これでまた藤七郎の名が売れたの。

 これで御様御用の話がし易くなったわ」


 有難い事である。

 我ごときの願いを、御老中が覚えてくださっている。

 しかもその進展を直接話してくださる。

 

「宜しくお願い致します。

 私が山名様に味方しても、御老中の御迷惑になるような事はないでしょうか」


「心配せずとも大丈夫だ。

 もし白河藩士が跳ねるようなら、遠慮なく討ち取るがいい。

 藤七郎は相良藩の剣術指南役なのだ」


 御老中が登城前に面談を許してくださったので、大幅に予定を繰り上げることができたのだ。

 御老中が登城されている間に、無役の山名様と話をすることができる。

 山名様が直接会ってくださるかどうかは分からないが、昨晩あれだけ心からの対応をしてくれたのだから、少なくとも家老は会ってくれるだろう。


 だから御老中との面談の後で、伊之助を先払いに山名家に訪問伺いをした。

 今回の面談は長くなるかもしれない。

 御老中は引く受けてくださったが、山名家の事情が変わってるかもしれない。

 山名家にとっても武家の面目をかけた対応になり、太平の世であればこそ、一歩も引く事のできない、戦に匹敵する進退だ。


 だが腹が減っては戦はできない。

 我は、伊之助が山名家から帰ってくるまでに、飯をすませることにした。

 本当は屋台で寿司を食べたかったのだが、伊之助に戻って来てもらわなければいけないので、店で蕎麦を手繰ることにした。

 御品書を見てみれば、適当に入った店だがなかなか本格的だ。

 懐には昨晩山名様に頂いた百両の金がある。


「御品書」

御膳大蒸籠  :代四十八文

そば     :代十六文

あんかけうどん:代十六文

あられ    :代二十四文(貝柱をのせた蕎麦)

天ぷら    :代三十二文(芝えびの天婦羅)

花まき    :代二十四文(浅草海苔をのせた蕎麦)

しつぽく   :代二十四文(卵焼・蒲鉾・椎茸等具材のせ)

玉子とじ    :代三十二文(溶き卵を入れてとじたもの)

かもなんばん :代三十六文(鴨肉と葱入り)

かしわなんばん:代三十六文(鶏肉と葱入り)

小田巻    :代三十六文(大きい茶碗蒸しに蕎麦かうどんが入った物)

おやこそば  :代三十六文(鶏肉と卵入り)

上酒一合    :代四十文


 我は安物で香りも味も落ちる二八蕎麦ではなく、上等で香りも味もよく大盛の御膳大蒸籠を食べることにした。


 山名家でも我の返事を待っていたのであろう。

 直ぐに面談の許可を出してくれた。

 我は急いで山名家の屋敷に向かった。

 往復走ってくれた伊之助には、どこかで何か食べてくるように二匁小粒銀を渡す。

 これだけあれば御膳大蒸籠と酒の三合も飲める。

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