第7話座頭金7

「立見藤七郎か。

 藤七郎が金太郎の弟だと聞いたが、間違いないか」


「間違いございません。

 ですが既に当時のお奉行様に久離願いを出しております。

 縁なき者とお考え下さい」


「それも聞いておるし、久離願いも確認した。

 剣客として生きる以上、何が起こるか分からず、実家に迷惑が掛かるから、兄に久離願いだしてもらったか、殊勝な事である」


「過分な評価痛み入ります」


 南町奉行、牧野大隅守様。

 噂通りなかなかな人物のようだな。

 普通なら与力に取り調べさせる程度の事件を、わざわざ自身で取り調べる。

 抽冬家や当道座が絡むと、評定所での取り調べになると考えているのだな。

 我でもそう考えたのだから、お奉行ほどの知恵者なら当然の判断だな。


 問題は当道座を統率している惣録検校の介入だ。

 惣録検校は十五万石程度の大名と同等の権威と格式を持っていると聞く。

 座頭金の利益を失わないために、賄賂を贈って幕閣に働きかけるだろう。

 評定衆にも同じように賄賂を贈って当道座に有利な判例を作ろうとするだろう。

 

「うむ、今回の件は色々と考えねばならない事が多くてな。

 藤七郎の率直な意見が聞きたい。

 名古屋天根一は大金で藤七郎を用心棒に雇おうとしたと聞く。

 何故断った。

 何故斬った。

 藤七郎ほどの腕前なら、斬らずに済ます事もできたであろう」


 ここは、正直に我の気持ちを話す方がいいな。


「我の考えを率直にお話しさせていただきます。

 迂遠な所から話すことになりますが、お許し願います」


「聞きたいと言ったのは余である。

 包み隠さず全てを話すがよい」


「まずは御公儀の盲人保護の政策は、とても素晴らしいと考えております。

 武士たるものが弱き者を助けるのは当然の事でございます。

 しかしながら、当道座も感謝しなければいけないと考えます。

 御公儀が幕臣の冠婚葬祭に際して富銀を徴収し、当道盲人に与えている事に当道座も感謝し、取り立てに気を使うべきだと思うのです。

 幕臣の困窮は眼を覆うものがあります。

 金利の高い座頭金を借りなければけない事からも、それは明らかです。

 ですが、その座頭金の元手の中には、困窮する幕臣から集めた富銀が含まれているのです。

 少なくとも、幕臣の妻子を吉原に売るなど、絶対に許せる事ではありません。

 だから斬って捨てました。

 この事、例え斬首になろうとも後悔致しません」


「よくぞ申した。

 天晴な考えである。

 私見を申せば、まったく同様に考えておる。

 だが、町奉行としては考えねばならぬこともある。

 藤七郎が申したように、盲人の保護は大切な事である。

 本来ならば、盲人が正業の鍼灸やあんまや歌舞音曲で生活できれば一番だ。

 だが現実には、江戸にいる三千七百ほどの盲人のうち、正業で食べて行けている者は七百ほどしかおらん。

 残りの三千は座頭金で生きておる。

 これを如何にすべきか、御公儀は悩んでおるのだ」

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