第6話座頭金6

 日当たりも風通しも悪い貧乏裏長屋。

 土間が一畳半に板の間が四畳半。

 畳は布団を敷く所に一畳だけが敷かれている。

 我ながら貧乏極まりない部屋だが、普段は家にいなから別にかまわない。

 その板の間に、おいよさんがさばいた鮒の切り身と温め直した鍋を置いてくれる。

 飯は朝お櫃に分けてもらった分が、まだたっぷり残っている。


「後は自分でできるから、おいよさんは子供達の面倒を見てやってくれ。

 いつもありがとうな、おいよさん」


「別に大したことじゃあありませんよ。

 藤七郎の旦那は長屋の救世主ですからね。

 何時でも何でも言ってくださいね」


 薄い壁越しに子供達の歓声が聞こえる。

 子供達も鮒の洗いを食べているのだろう。

 他の長屋の女房子供も、鮒の洗いを食べているのが会話で分かる。

 働きに出ている旦那には内緒なのだろう。

 まだ鯉や鮒が天水桶に入れられて泥を吐かせているから、少しくらい鮒を食べても誤魔化せるつもりなのだろう。


 我は自分でお櫃から飯を慳貪振り鉢に盛る。

 一杯盛りきりで饂飩や蕎麦や飯を喰わせてくれる慳貪屋で使っている大きな鉢だ。

 そこの冷めた飯を入れ、飯の上に鮒の洗いを六切れ乗せる。

 焼き塩を振って白湯をかけて一気に喰らう。

 焼き塩の香ばしい香りと塩味が、鮒の旨み甘味を引き立ててくれる。


 二杯目は、鮒の洗いの切り身を六切れ乗せ、とっておきの七味とうがらしをふりかけ、また白湯をかけて一気に喰らう。

 唐辛子の辛みがなんともいえず食欲を刺激しする。


 続けて三杯目を盛りつける。

 最後の鮒の洗いの切り身を三切れ乗せ、鮒の骨と頭の入った味噌汁をかける。

 何とも言えない食欲を刺激する香りが、二杯食べた後とは思えないくらい胃の腑を刺激し、一気に喰らう。

 甘味が強い江戸の味噌は、鮒の臭みを消してくれる。

 大きな慳貪振り鉢で三杯も食べたのに、もう一杯食べたい誘惑にかられるが、ここで食べてしまったら、夜に食べる飯がなくなってしまう。


 食事をした後は剣の鍛錬である。

 大刀と脇差は無礼討ちの証拠として奉行所に提出してある。

 流石に脇差一振りもないのは、剣に生きる者として、とても恐ろしい。

 一番得意な槍は残っているが、それとこれとは別である。

 腰にあるべきものないと、どうにも落ち着かないのだ。

 だが実家の精一郎殿が大小を貸してくれた。

 

 ありがたい事に、慶長より前の古刀を貸してくれたので、敵と討ちあっても折れる心配は少ない。

 その古刀を使って、狭い部屋の中で刀を扱う鍛錬を繰り返す。

 長屋の外に出られないので、山野を駆けまわって足腰を鍛錬する事ができない。

 態と足腰に負担をかける姿勢で抜刀術を繰り返す。

 


 

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