第3話座頭金3

「今から奉行所に届けを出してきます。

 御当主は支配組頭に届けを出していただきたい」


「あ!

 申し遅れました。

 私は小普請組の抽冬佐平次と申します」


「私の方こそ自己紹介が遅れました。

 武州浪人、立見藤七郎と申します」


 互いに挨拶を終え、私は浪人を管轄する町奉行所に無礼討ちの報告に行き、抽冬殿は小普請組支配組頭に今回の件を報告に行かれた。


 ありがたい事に、見物していた多くの人が、一緒に奉行所に同道してくれて、証人として証言してくれるという。

 ただ困った事に、今月の月番は南町奉行所という事で、実家に迷惑をかけてしまうかもしれない。


 無礼討ちを認めてもらうには、厳格な条件を満たす必要がある。

 なによりも無礼討ちを行う必要があった正当性を証言してくれる証人が必要だ。

 証人がいないと、名古屋天根一が口にしたように、武士として切腹もさせてもらえず、罪人として斬首にされてしまう。

 それだけではすまず、家は取り潰され財産も没収されてしまう。

 だからこそ、無礼討ちの後で家族・家来・友人が必死になって証人を探すのだ。


 証人がいなくても、まずは役所に届けなければいけない。

 無礼討ちを行った者には、事情の如何にかかわらず、人一人を殺した重みを知らしめるために、二十日以上の自宅謹慎が申し付けられる。

 無礼討ちを行った際の武器は、証拠品として押収される。

 武士の魂とも言われる両刀でも考慮される事はない。


「叔父上、やってくれましたね。

 もう少し静かに暮らせないですか」


「申し訳ありません。

 本家に迷惑をかける心算は毛頭ありません。

 久離願を出していただいていますし、連座に問われる事はないと思います」


「分かっていますよ、叔父上。

 叔父上が剣客を目指される以上、色々と問題が起こる事は覚悟しています。

 ただ叔父上が一方的に処罰されないように、私は私で動かさせてもらいます。

 その事は忘れないでくださいね」


 ありがたい話です。

 武士を捨て町人になるのなら大家株を買ってくれるという話を、どうしても武芸で身を立てたいと願って、久離してもらったのだ。

 実家に手助けしてもらえる立場ではないのだ。

 叔父上と立ててくださるが、精一郎殿は兄上の嫡子で立見家の当主。

 我は、隠居した父が五十の時に愛人に生ませた妾腹の厄介者。


 今回の件も、抽冬家の奥方と姫が不憫で義侠心から助けたのが主な理由だが、心の中にこれで剣名が広まるという計算があったのも確かなのだ。


「武州浪人、立見藤七郎。

 貴殿の届け出に対する証人が多数奉行所に来ておる。

 本来なら小伝馬町牢屋敷の大牢に入れるところだが、町名主と大家が請け人となったので、長屋で謹慎いたすように」


 取り調べを行ってくれた与力が温情を見せてくれた。

 精一郎殿がとりなしてくれたのだろう。

 ありがたい話だ。

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