第2話座頭金2

「この場におられる方や家人の方に物申す。

 名古屋天根一検校と申す者、事もあろうに、この家の奥方や姫を遊女として吉原に売ろうとした。

 止めに入った我に女衒になれと言い放った。

 このような悪口雑言は武士の誇りにかけて許せぬ。

 この恥辱を雪ぐために手討ちにいたす。

 後々奉行所の取り調べがあろうが、正しい証言をしてもらいたい」


「やれやれ!」

「そのような極悪人を許すな!」

「必ず証言させてもらうよ」

「ご浪人殿、かたじけない」


 見物していた町民や、この家の主人まで証言を約束してくれる。

 後は奉行所の取り調べに有利になるように、体裁を整えなければいかん。

 

「名古屋天根一検校。

 刀を持たぬ者を討つの武士の作法に反する。

 この脇差を使うがよい」


「ひぃぃぃぃい。

 本気ですか?!

 私は幕府の高官にだって知り合いがいるんですよ!

 盲人の私を斬ってただですむと思っているんですか?!

 切腹も許されず、斬首にされるんですよ。

 それでも私を斬ると言われるんですか!?」


「脇差は渡したぞ。

 抵抗しなければお前が死ぬだけだ!」


「ひぃぃぃぃい。

 殺せ!

 殺してしまえ!

 浪人ごとき斬り殺しても、お奉行様はこちらの味方だ!

 さっさと殺してしまいなさい!」


 馬鹿が!

 これでこちらの思うつぼだ!


「なに?!

 御家人の奥方や姫の吉原売りに町奉行が加担しているのか?!

 これは絶対の許せんぞ。

 御当主!

 評定所への訴えを願いますぞ!」


「お任せください。

 泣き寝入りは致しませんぞ」


 とは言ったものの、幕府高官やお奉行にも逃げ道を用意しておかないと、牢内で密かに暗殺される可能性もあるからな。

 死人に口なしではないが、名古屋天根一と手下を皆殺しにしておけば、幕府高官もお奉行も上手く逃げるだろう。

 上手く逃げ道を用意しておけば、俺に対する取り調べも軽く済むだろうし、十四人を一刀のもとに斬り殺せば、剣客としての名も広まるだろう。


 そんな事を考えていたのは一瞬で、名古屋天根一に私を殺すように命じられた手下どもは、ほとんど動いていない。

 手下が斬りかかってくる前に、抜刀術で名古屋天根一の首を刎ね飛ばす。

 そのまま一歩踏み込んで、二の太刀三の太刀で、名古屋天根一左右で護衛をしていた手下の首も跳ね飛ばす。


 体を捻って振り返り、背後から襲ってきた手下を撫で斬りにしていく。

 多くの手下が無頼の徒で、大脇差を腰に差している。

 皆喧嘩出入りや悪行で人を斬ったことがあるのだろう。

 大脇差を抜こうとする姿はそれなりのものだが、幼い頃から人殺しの修行をさせられてきた我の足元にも及ばない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る