立見家武芸帖

克全

第1話座頭金1

「やい、やい、やい、やい。

 借りた金をかえさねぇたぁ、どういう了見でぇええ!

 こちとらぁ眼の見えない可哀想な盲人なんだよ。

 その盲人に借りた金を変えなさいなんて、悪党にもほどがあるぞ」


 可哀想なのは御家人の方だ。

 昼夜関係なく、連日連夜、ご近所に悪態が聞こえるように取立てるのだ。

 座頭金は、赤子の衣服を剥いでも返さなばならいと言われるくらい、取り立てが厳しいのだ。


 それに、基本金の貸し借りは本人同士の話し合いで、幕府が介入する事は絶対ないのだが、座頭金だけは別物だ。

 盲人保護のために半ば官金扱いで、あくどい取り立てを黙認している。

 この家の者も、よほど困ったのだろうが、座頭金に手を出しちゃだめだ。


「おっ?

 可愛い娘と奥方がいるじゃあないか。

 吉原に叩き売ったら少しは金になる。

 さあ、一緒に行こうじゃないか」


「おい!

 いくら何でもやり過ぎだぞ!

 武家の娘と奥方を無理矢理に吉原に売るなど、絶対に許されんぞ!」


「じゃかましいわ!

 俺達は天下の当道座だぞ!

 幕府から認められた金貸しなんだよ。

 浪人の分際でそれを邪魔するんじゃねえ!」


「お前は目明きではないか。

 目明きが座頭を騙って金貸しをするなど、絶対に許されんぞ」


「おや、おや、おや。

 この方々は、眼の見えない可哀想な私を助けてくださる、親切な方々なのでございますよ。

 私のような、眼の見えない弱い者から金を借りて返さないような極悪非道な人間から、お金を取り返してくださる親切な方々なのですよ。

 その親切な方々を、騙りのように非難をするのは止めてください」


 やはり隠れて見ていたか。

 盲人の感覚は鋭い。

 普段は隠れていて、座頭が出ていかねばならない時だけ出ていく。

 普段から姿を現わしていると、襲われる可能性があるのだろう。

 それだけ善良な人から恨まれているという事だ。


「そうか、お前がこの家に金を貸した座頭なのだな?」


「名古屋天根一検校と申します。

 以後お見知りおき願います」


 こいつが悪名高い座頭貸しの中でも特にあくどいと言われる名古屋天根一検校か。

 ここで会ったが百年目ではないが、命懸けで名を売る好機かも知れないな。


「ならば名古屋天根一検校に問う。

 座頭金返さない場合は、武家の奥方と姫を力づくで連れ去り、吉原に売るのが当道座の決まりなのだな?

 江戸の盲人の統率を任された、惣録検校が命なのだな?

 しかと答えよ!

 返答によっては許さんぞ!」


「おや、おや、おや、おや。

 随分とお元気なご浪人様でございますね。

 どうです、その元気を役に立てられませんか?

 私に力を貸してくださるのなら、三日に一両のお礼をさせていただきますよ。

 いかがでございますか?」


 しめた!

 これで無礼討ちの名目が立つ!

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