1章第5話

「皆さんはどの選択科目を選びますの?」

「俺は騎士科だなー。」「私は魔法科。」


言葉が重なったことで一瞬鋭い視線が交差するが、直ぐに収まる。


「「そういうシアは?」」


今度は言葉もかぶり、一触即発のような雰囲気となる。


「…クス。本当に仲が良いのですね。」

「シア、止めてよ。こいつとは昨日知り合ったばかりなのよ。頭の中まで筋肉が詰まってそうな奴なんかと仲がいいと言われても困るわ。」

「この…。」

「ケヴィン、熱くならない、熱くならない。」

「ミレイさんも煽らないでください。2人が驚いていますよ。」


諌めると微妙な雰囲気になった。


「まぁ、頭が筋肉と言うのは同意できる部分である。」

「シュウ?」

「ケヴィンだけの事じゃない。全員がそうって話だ。」

「シュウさんはそういうのに詳しいの?」


時計を見るとまだ、時間に余裕があった。


「多少は、ね。」

「是非聞きたいわ。」

「じゃぁ、少しだけ。僕らの頭の中には脳と呼ばれる繊細かつ重要なものが入っている。これが、壊れれば人間は死んでしまうから固い骨で守られている。ケヴィン、人を倒すならどこを叩く?」

「そりゃ、顔だろ。脆いところが多いからな。」

「そう。顔は急所だらけだ。そして、その衝撃は脳にも届く。顎を打たれれば脳が揺れて地面が揺れたような錯覚を、蟀谷を打たれれば強い衝撃で意識を失うこともある。だが、脳自体の耐久と言うのは早々鍛えることはできない。」

「じゃぁ、筋肉と違うじゃない。」

「そう。確かにそういった意味では鍛えられない。例えば、行儀は良くないがこのようにペンを回したとしよう。」


昔癖でやっていたペン回しを簡単に披露しました。


「器用だな。」

「これは、指や手が覚えると言うものでもあるが、指や手の動きを頭が覚えるんだ。その為には何度も行う必要がある。何度もやれば小さな成長が積み重なり、突然上手くなったように思うことがある。こういったことはないかい?」


全員に聞くと頷いたりしているので何かしら覚えがあるんだろう。


「脳を鍛えるために本を読む。これは間違いではない。でも、動作やイメージが伴うことで飛躍的に向上する。例えば剣の素振りをするのと実際に人と戦うのであればどちらが疲れるだろう?」

「そりゃぁ、まぁ、戦う方だろ。」

「そう。体力的な見方もできるが、実は頭も疲れている。体の動きを頭が考えているからね。そうするとほら、頭の中味も筋肉と一緒だろ?」


キィーン


5分前の予鈴がなった。


「話はここまでかな。」

「何だろ。煙に巻かれたような説法だっわ。」

「説法って。」

「まぁ、言われてみればってところはある。教えて貰うとき親父にも良く考えろって言われたし。」

「頭は使えば使うほど馴れていく。その癖は止めない方がいい。さぁ、授業に行きましょう。」


少し早足で部屋に戻る。


「さっきのシュウさん、とても知的でしたね。」

「言葉使いも男の方ぽかったですわ。」


セラさんとシアさんから変に言われていたような気もしたが、あの空気の中で残りの時間を過していたと思えば、安いものだった。

授業には間に合ったが、それを見た特別入試組はこちらを睨んでいた。


「えー、であるからしてー。」


数十年ぶりの学園生活は刺激的だったが、いくら国立と言えど教師の質はそれぞれだ。

特に理系や魔法の教え方が曖昧でこうなるからこうするという暗記型の教え方だ。


「では、今日はここまで。明日の授業は今日の実践となる。それぞれの必要な準備を行うように。」


準備というのは魔法を扱う際に補助となる道具の事で杖がそれにあたる。

無くても使用には差し支えないが現代の理論において安定性が違うということだ。


「シュウは、魔法を使える?」

「ペルでしごいてもらったよ。」

「ご冗談を。先生が腰を抜かしておりました。皆さんも注意した方がよろしいです。」

「へぇー。それは楽しみだ。」

「ええ。私も楽しみです。それではお2人ともまた明日。」


セラは特別入試組の顔を立てるためからシアと共に寮に戻っていきました。


「やべー、やべーよ。早速鬼門の魔法授業ー…。」

「どうした、ケヴィン。」

「あ、相棒。」

「明日、順番に修練場で魔法の実践があるでしょ?それを聞いてからこの調子なのよ。」

「魔法嫌い魔法嫌い。」

「何があったんだ?」

「実はよ、うちのお袋は魔法使いだったんだよ。そんで、2人いる姉貴が両方とも魔法が超得意で、子供の頃から…。」

「まぁ、人に得手不得手は必ずある。劣等感を感じる必要はないさ。」

「いや、そうじゃなくてよ。」

「夕飯を食べるまえに練習しよう。不安を拭うにはそれが1番早い。」

「お、おう。」

「面白そうだから見に行くわ。」

「じゃぁ、僕も。」


こうして4人で修練場に向かうと他の学生もちらほら練習していた。


「ここでいいでしょう。ケヴィン、属性は?」

「土だ。」


魔法師の考え的は、基本四大属性を用います。

言ってみれば火、水、土、風であり、そこからさらに派生はあるものの原則はこの4つのどれかに該当すると言われています。


「Cもいきなり魔法を実践しそうですか?」

「たぶんね。属性確認はしないと思う。」

「なるほど。ケヴィン、魔法は何か使えますか?」

「ストーンバレットなら…。」

「やってみてください。」

「お、おう。すぅーはぁー…礫よ、敵を穿て。」


地面から拳大の土塊が5つ浮き上がる。


「ストーンバレット。」


10メートルほど、水平に飛んだところで勢い失って慣性にしたがって落下しました。


「ふぅーふぅー。な?これなら、実際に石投げた方が早いんだよ。俺の場合。」

「確かにこれならねー。」

「…返す言葉もないわ。」

「いえ、素晴らしい才能です。」

「えっ?」「はぁ?」

「シュウ、どういうこと?」

「ケヴィンは今はただ詠唱に従っているだけの状態です。これなら少し考え方を変えるだけで改善が見込めるでしょう。」

「頼む!心の友よ!!」


小枝を拾い地面に簡単な絵を描きます。


「酷い絵ね。」

「自覚はありますよ。」


絵は見るのは好きですが、真面目に書くとどうもいい評価がされなかった思い出があります。

なので棒人間で済ませます。


「まず、詠唱の確認ですが礫よ、敵を穿てですね?」

「ああ。」

「では、詠唱を3小節に分けましょう。」


ガリガリ


「礫よ、ここで浮き上げる弾と数を決めます。」

「弾と数?」

「はい。弾とは強度、重量、材質と言ったところでしょうか。このように土を握った程度なのか、それとも石のような固さなのかそれとも金属のような硬さなのか。強度を決めたらそれに見合う材質を決めます。どんな人でも砂を金属のような硬度に固めるのは難しいでしょう?最後は重量ですが、ケヴィン小石とあれくらいの岩、どちらが投げられたとき痛いですか?」

「そりゃ、岩だろ。つーか、普通に死ぬだろ。」

「じゃぁ、持ち上げて投げてみてください。」

「無理。」

「というように魔法でも重すぎては飛ばすのに苦慮します。じゃぁ、ケヴィン。」


20メートル程離れた場所に木の枝を差し込みます。


「この枝を折るのに必要な弾と数は?」

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