1章第6話

翌日、授業の順番が代わりAクラスが最後に実践となりました。

ちなみに今日はその授業以外は自習です。

例年、それが気になって授業に身が入らない生徒が多数出るのと、見て覚えるのも経験という観点だそうです。


「ケヴィンの番ですね。」

「あれだけ、練習したのです。ケヴィンなら大丈夫でしょう。」


標的は使い込まれた木製の打ち込み人形で、どのようなかたちであれ当たれば合格です。


「次。」

「はいっ。」


標的までの距離は25メートルほど。

開始線から出ては行けません。


「礫よ。」


ケヴィンが選択した弾の大きさは昨日最初に設定したものより一回り小さい大きさでした。

その分、硬度が増しております。


「敵を。」


右目を閉じて、左手を標的に向けます。


「穿て。」


今まで余分に使っていた魔力が1発に集約され、打ち込み人形の頭部を貫通してみせました。


「よ、よろしい。」

「あざっす。」


ケヴィンがこちらに向けて小さく拳を向けました。

それに応えるようにこちらも小さく拳を返します。


「はっ、あの程度で喜んで。」

「可愛いものではないですか。」

「ま、庶民にしてはやるな。」

「きっと魔法が得意なんでしょう。」


と言う者もいれば、黙って今の結果を見ている者もおりますが、次はミレイの番です。


「次。」

「はーい。」


チリッ…


「ファイアボルト。」


打ち込み人形が火柱に呑まれました。

これには、しばらくコメント出来なかったようです。


「ミレイの魔法は凄いですね。」

「ええ。これ程とは。」


おそらく、魔法の起点を人形まで延ばしたのでしょう。

老師も同じ様なことができましたが詠唱も無しに行うとは…派手すぎず、わかるものには伝わると言った感じでしょうか。

喧嘩は買うぞというアピールにも見えます。


「C組はこれで終わりのようです。」


クラスが移動を開始したのでそれに続きます。

Bクラスでは一部の生徒(特別入試組)が気をはいて魔法を使っているようで歓声が上がっております。

おそらく半年後のクラス替えに向けて死ぬ気でアピールしていくつもりなのでしょう。


「次。」


クロスの番になりました。


「いってくるよ。」

「頑張って。」


開始線に付くとクロスは集中を高め、持っていた30センチ程の杖標的に向けて詠唱を紡ぎます。


水の槍よ、風を切り裂き岩を抜け。


これが洗練された魔法というものなのでしょう。

派手さをアピールしてきた他の学生達はミレイの時とは違った衝撃を受けます。

おそらく、何が起こったかわからない人が殆どでしょう。

私の視点ではこのように見えました。


「水の槍よ。」


1小節の間に水の槍が完成。


「風を切り裂き岩を抜け。」


複合小節によって打ち込み人形を貫きました。


「お見事。」

「いやー、シュウの授業聞いたお陰かな?」

「授業って。」


クロスの後はあまり成果が振るいません。

きちんと当たってはいるものの、動揺からか狙いどおりにいっていないように思えます。


「次。」

「はい。」


セラさんの番になりました。


「かなり細い杖だね。」

「…そうだな。」


セラさんは指揮者のように杖を持ちます。


「風よ、踊れ。」


打ち込み人形がダンスホールにいるかのように動き出します。

最初は回ったり、体を傾けたりした程度ですが、誰も止めないためジャンプし始めたところで合格を貰っています。


「次。」


私の順番となりました。


「エイム、ワン。」


足を肩幅に開き、両手をだらりと下げた状態から右手を銃に模し、左手は添える位置に置きます。

老師に魔法と言われてピンと来ませんでしたが、遠距離攻撃といわれて最初に思い至ったのが拳銃の存在でした。

これはその模倣で馴れ親しんだ所作で狙いを定め発射した魔力の塊が打ち込み人形の額を居抜きます。

そして、素早く元の姿勢に戻ります。


「早くしないかね。」

「終わりました。」

「何?」

「標的の額を確認願います。」

「う、うむ。」


打ち込み人形の額には直径3センチほどの穴が空いていた。


「エアブリットか何かか。良いだろう、合格。」


試験官から合格を評価を受けて、その場を離れます。


「次。」

「見事だった。」


新入生の代表だった学生から賛辞を受けました。


「炎の鳳よ、天を舞え。」


炎が鳳の形になると翼を広げ修練場を飛ぶ。

それは生き物のように生々しく、術者の技量を如実に表した。

そして、猛禽類が獲物を狩るような勢いで急降下し人形を炎が包んだ。

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