1章第4話

「いーなー、あれ。売ってねぇかな?」

「ペルの親方に作って貰いましたから、ここいらにはないかもしれません。」

「あと、石鹸だったか。あれもやばい。うちにほしい。」

「石鹸くらいなら次の休みに作りますか?材料はなんとかなると思いますよ。」

「マジか。頼むぜ。」

「2人して何話してるのよ。」


彼女は時間ギリギリまで部屋の整理を行っていたので我々が体を動かしていたのに気づかなかったようです。


「おう。シュウに貸して貰った道具が凄くてな。」

「ホントに仲良さそうよねー。」

「まぁな。」

「やぁ。ここいかな?」


席がぼちぼち埋まり始めたため、空いている席はあまりありません。


「おう、勿論だ。」

「ええ。」

「どうぞ。」

「ありがとう。僕はクロス。よろしく。」


簡単に自己紹介してクロスを迎えるとささやかな宴が始まりました。


「明日はオリエンテーション、そしてクラスの顔合わせか。」


一般入試200人、特別入試40の合わせて240人は6つのクラスに成績順で分けられ、最初は基本的にAクラスが特別入試の枠で埋り、B、C、D、E、Fと一般入試生が割り当てられるのが通年通りだ。


「しょうがねぇよ。貴族と庶民だと勉強に避ける時間も違うしな。まっ…それが幸せとは限らないぜ。」


ケヴィンが苦い顔をしていました。

筆記試験を通っているので勉強が出来ないわけではないようですが、それでも苦手のようです。


「なるほど、確かに言われてみればそうだね。」


クロスが納得したように頷く。


「皆同じクラスになれるといいね。」

「どうかしら。誰かさんはF辺りにいるんじゃない?」

「はっ、ちげねえ。」


馬が合わないのか、同素枠嫌悪なのか、今日であったばかりなのに2人の火花が上がっていました。


「2人とも。」

「へっ。」

「ふんっ。」

「ははは。仲がいいのは羨ましいな。」


クロスが入ったことで少し和やかになったムードは歓迎会の間続きました。


「シュウ、朝飯行くときは声をかけてくれよな。」

「あっ、私も。」

「じゃぁ、僕も。」

「えっ?それ私が寝坊したら…。」

「「「しないでしょ。」」」


これはあまり夜更かしできないようです。


寝静まった頃、私は隠し床から地下へ潜りました。

地下に期待していた本はありませんでしたがエドが作っていたと思われる道具が眠っていました。

しかし、どれも作りかけ、というよりも作り直している最中だったように思えます。

その中で唯一の完成品が箱に入っていました。


箱には日本語で

鎖の輪を左手にかけ時を進めよ。

先ずは零時、丑三つ時の始めに針は進み終わりに止まる。

最短で十字を描き、正午の1時間前に針は再び止まる。

そして、正午から時は動き始める。


入っていたものは動いていない懐中時計で、指示通りに時計の針を動かします。

00:00→02:00→02:30→03:00→06:00→11:00→12:00


針を最後の12時に合わせると針がぐるぐると回り、再び正午で止まりました。


これが、錬金術師エドが残した研究成果魔導増幅器『法閠』(レガリア)。

彼が渡り歩いてきた国で培った知識経験技術の粋をもって作り出された。


彼の事です。

わからない場所に研究成果を残しているに違いありません。

時間が出来たらそれを探しに行きのもいいでしょう。


翌日。

入園式が行われました。

学園長や来賓の有難い言葉等はなく、在校生が主体の式で最終学年生の首席が挨拶し、新年度生の代表に制服の上着を着せて、その学生が挨拶を述べると言うものだった。

その後、各学生が代表同様に上着を着せられ、式は終了しました。


「入園式、御苦労だった。一般入試で入ってきた諸君は既に顔を合わせているが、騎士科講師のディクソンだ。この学園の講師は、例え貴族であっても家名を名乗ることはない。講師と言う立場で諸君等に接する事に注意してほしい。では、クラス割りを確認し各々の部屋に向かってほしい。以上。」


ケヴィンとミレイは仲良くCクラスでした。


「はぁ、何であんたと一緒なのよ。」

「それは俺の台詞だ。…まぁ、シュウとクロスには同情するぜ。」

「…そうね。」


そう、私とクロスは貴族達が犇めくAクラスに名前があったのです。


「とりあえず行きましょうか。」

「そうですね。」


私達が部屋に付くと広い教室にそれぞれのグループが形成されていました。


「はーい。部屋に入ってくださーい。」

「えっ?」

「?」


知った顔が当たり前のように部屋に入ってくるとそのまま教壇に付きました。


「皆さん、入園おめでとうございます。魔導技術科講師、アルフォートです。ディクソン講師が申した通り、我々は貴方達を学生として扱います。学生の優劣や個性がここにあったとしても、爵位が入る余地はありません。それを踏まえ、学園での生活に注力して貰えれば講師一同の喜びです。」


一歩間違えれば、全ての貴族を敵に回すような発言だった。

それを彼の者の肩書きと能力が黙らせた。


「では、オリエンテーションを始めましょう。私が名前を呼びますので起立の上簡単な自己紹介をお願いします。あっ、爵位とか不要ですが、自分の街の自慢はちょっとくらいはいいですよ。」


私を含め、39人の自己紹介はある程度スムーズに行きました。


「では、最後にレンペシアさん。」

「はい。」


気品が他の貴族と違った。

振る舞いがそれにふさわしいものと思わせた。


「レンペシアと申します。皆様と同じ学生であり、共に学ぶ友であります。どうかよろしくお願いいたします。」

「はい。では、全員済みましたね。これからの流れですが夏季休校まで定期考査が2週に1度あり、期末考査が休校前に行われます。その結果を元にクラス替えが行われますので、皆さん頑張ってください。…後は、ないですね。皆さん質問はありますか?」

「アルフォート講師。選択科目について説明をいただきたいのですが。」

「あっ…これは失礼。確かに魔導技術科に入る人だけじゃありませんからね。質問がありました通り、学園には複数の選択科目があり、それを自由に選ぶことが可能です。選択した科目に成績に関係することはありませんが、そこで出した結果次第では成績として加味されることがありますので真剣に取り組むことをお勧めします。丁度良いですね、簡単に選択科目について紹介します。職業系として騎士、魔法、魔導があります。これは実地研修も多くありますので怪我に注意してください。学問系は、経済、地学、戦略。研究系は戦術、作法、魔導技術となります。詳細はその講師達が授業の空いた時間に紹介してくれる事でしょう。」


アルさんの視線が時々こちらに向いておりました。

午前はこれで終わり、昼食後は普通に授業が始まります。


「ふぅー。」

「意外と緊張しませんでしたね。」

「まだ、周囲がこちらを気にしていないだけでしょう。」

「お疲れ様です、シュウ様。」

「えーと、セラフィーヌさんここで様付けはちょっと。」

「では、私の事もセラとお呼びください。」

「ぁー、はい。セラさん。お疲れ様です。」

「はい。あのシュウさん、こちらの方は?」

「初めましてセラフィーヌ嬢。僕はクロスと申します。どうぞよろしくお願いします。」

「これはご丁寧にありがとうございます。私はセラフィーヌと申します。シュウさんと同じ様にセラと呼んでいただければ嬉しいです。」

「それでシュウさん、聞いてください。私、レンペシア様の隣の部屋になれましたの。」


セラの最大の目的が王女様と個人的な付合いを持つことである。

その第1歩としては大きな1歩だといえた。


「セラさーん。」


話の本人がやってきた。


「シア様。」

「こら、様はダメだといったでしょう?」

「失礼いたしました。」

「シュウさんもクロスさんも話にわってしまってごめんなさい。淑女として間違っておりました。」

「いえ、お気になさらず。セラさんに何かご用なのでは?」

「あっ、そうでした。皆さんがお昼をご一緒にと言ってくださったのです。」


特別入試組、すなわち貴族達は一般入試組が使う食堂とは違うサロンのような豪華な食堂が使える。


「あっ、そうだったのですか…私、同郷のシュウさんと昼食を取ろうと思いまして。」

「まぁ。それは、もう1つの食堂をお使いになると言うことですわね。」

「はい。」

「なら、私も行きます。前から行って見たかったの。」

「「………。」」


トントン拍子に決まってしまった予定の並みに抗うことは叶わず、一般入試組の食堂に王女様が襲来した。


「えーと、これはどうすれば良いの?」

「このメニューから注文すればいいんだ。」


ケヴィンは怖いもの知らずと言うか、王女様と知らず注文の仕方を教えていた。


「…。」


逆にミレイは緊張してか軽く震えて黙っていた。


「…あの。」

「!。な、何かしら。」


セラが小さく声をかけた。


「そんなに緊張しなくてもいいと思いますよ。シアさ…んも気兼ねなく接してほしいと言っていましたし。」

「…そうね。ほら、シアが困ってるじゃない!教えるなら何で最後まで教えないのよ!」


ミレイの調子も戻り、6人はテーブルについてお昼の時間を楽しんだ。

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