1章第3話
「あれ?君は、ミレイさん?」
「シュウ、君だったかしら?」
昨日、唯一言葉をかわした受験生と合否を確認する掲示板の前で遭遇した。
「昨日はお疲れ様。」
「ええ、貴方も。」
今は昨日のミレイから感じた熱意のようなものは、ない。
その理由を聞くにはまだ友人というよりか、知り合い程度の間では聞いてはいけないような気がした。
「そろそろ、発表かな?」
「…そう、みたいね。」
4つの板が布に包まれ、運び込まれた。
「受験生諸君、これより結果を発表する。合格を確認したものは速やかに校内の事務室で手続きを済ませ、案内の通り入寮するように。不合格だった者の出口はそちらの方だ。返りに受験票を回収する。試験官に渡すように。」
合図され、布が取られる。
すると叫び声とも歓声ともとれるような音が響いた。
泣き崩れる者、呆然とする者、様々だったが、次第に数が減っていく。
「…受かった………よかった、よかった…。」
ミレイも緊張が途切れたのか涙を浮かべていた。
こういった合否発表の場には古今東西かかわらず、天国と地獄が交わっている。
地獄を味わっている者達は、自分の不運を怨む者もいれば合格者を睨み付ける者等々いるが、今何らかの感情が露になる人間はきっと大丈夫だろう。
問題はショックでとぼとぼと歩いている者達だが、それをカバーする位置に今はいなかった。
図書館に勤めていたときはそういう子達と話もしましたね…受験するにしても浪人するにしても、熱意が失われては勉強も身が入らないのものです。
かく言う私も…④ー94、④ー94…ありました。
とりあえず、第1関門突破ですね。
「シュウ君、受かった?」
「はい。ミレイさんはどうでしたか?」
「…合格よ。」
「それはよかった。おめでとうございます。」
「ええ、貴方も。」
どこか残念そうなミレイと一緒の形で事務室に向かった。
「合格おめでとう。何組だったかな?」
「④組です。」
「私も。」
「受験票確認しますね、94番と97番。じゃぁ、先ずは、こちらの書類の必要項目を記載と書名をしてください。」
「書名ですか?」
「はい。学園の授業では時折危険な授業もありますので、一般入試の方々には先んじてもしもの際の同意を貰っているんです。勿論、これも入学の条件に入っていますよ。」
「わかりました。」
さらさらさら~~。
「では、入寮の確認です。初年度の半年は必ず大寮となり、次年度は分寮若しくは学年十二位になれば戸建てが与えられます。最終年でも分寮は移動があります。寮と言っても部屋は個室で多少の荷物は持ち込めますので、必要があれば持ち込むといいでしょう。後、一般入試の方々に気を付けていただきたいのが、身なりです。同学年には特別入試で入ってきている方々もおります。その方々は汚れやら匂いに非常に敏感ですので大寮入口の心得をよく観てください。では、最後に制服の採寸を行い、受験票を渡してから寮へ向かってください。」
採寸は男女別々で私の5分くらいの時間で終わりました。
「やぁ、受験番号④ー94君。」
「何かご用ですか?」
「うん。僕はアルフォート。君と話がしたかったんだ。」
「アルフォートさん、私はシュウと言います。」
「ありがとう。僕の事はアルと呼んでよ。少しいい?」
「はい。」
彼の話は互いの出身地の話や試験の話でした。
「シュウ君?」
「あっ、君の知り合いが着たみたいだね。今日はありがとう。」
「いえ、楽しかったです。」
「ちなみに何だけど、選択科目は決まっているかい?」
「選択科目?いえ、まだ。」
「そう!じゃ、またね!」
アルフォートは寮と違う方向へ走っていきました。
「待っていて…くれたわけではないのね。」
「否定はできませんが、結果的には待っていた形です。」
「そう。じゃ、寮までご一緒しても?」
「喜んで。」
彼女を見ていると女性とはいつの時代も接し方が難しいと痛感しました。
寮に着くと既に数人の受験生が入口近くに集まっていました。
「これはどうしたんですか?」
「先に鍵だけ貰ってここで待てってよ。」
ぶっきらぼうですが、我々に状況を教えてくれました。
「シュウです。」
「ケヴィンだ。」
今の私は180センチほどありますが彼はもう少し高く185センチほどでしょうか。
更に、鍛えられた筋肉から戦士のような風格を感じます。
名前と受験番号を告げ、鍵を受け取り3人で少し待つと全員が揃いました。
「!」
「どうかしたの?」
「いえ、何でもありません。」
チリンチリンチリン♪
「皆様、合格おめでとうございます。当大寮の舎監一同にございます。これから長ければ1年間皆様とご一緒させて貰います。さて、ここは寮と言うことであり、いくつか規則がございますのでそれについて説明申し上げます。」
舎監からの説明はまず時間からで、食事の時間、寮の各種施設の利用時間、授業の時間の説明でその後に適当に班を割って寮内の案内が行われた。
「以上で説明を終わります。各自疑義がありましたら、この舎監のバッチを付けている者にお訊ねください。それでは、夕食まで自由時間となりますので、荷物の搬入がある方はそれまでにお願いします。」
解散になると自分の部屋に行くものや学園の出口に行く者等様々だった。
「ははーん。あれが噂の替玉入試か。」
「替玉入試?」
「ああ、今学園の出入りは学園生の証明書じゃなく、この鍵で行われるって話だったろ?だから、このタイミングで入れ替われば受験しなくても入学できるって訳さ。」
「なるほど。鍵しか証明できないってことか。」
「有名な話よね。ああいう人たちのせいで初年度の半年間は効果測定で3回連続で否の判定を受けると退学よ?困ったものだわ。」
「時間があるなら、飯でも食いに行かないか?勿論、部屋で少し時間を潰してからだが。」
「あら、奢ってくれるの?」
「むっ?」
「まぁまぁ、せっかくこうして出会えたんです。歓迎会は夜にありますが零次会は私が出しましょう。」
「ヒュー♪」
「あら太っ腹ね。誰かさんと違って。」
私の部屋番号は77番、ケヴィンが50番、ミレイが180番となりました。
といってもそれほど離れていると言うわけでありません。
対面の部屋が177番ですね。
そうするとミレイさんはそれから3つ端側です。
「…なるほど。楽しみは後にとっておきます。」
部屋に入ってすぐに眼鏡をかけると床に仕掛けられた仕掛けを発見した。
これは眼鏡をかけることで板に偽装した隠し床をはず事が出来るもので、それを外すのは眼鏡がなければ難しい。
部屋は家具を除いて6畳位の広さで1人で使うには十分です。
「お待たせしました。」
「いや、1人で部屋にいると寝そうでな。先に着て待っていれば言いと思っただけだ。」
待ち合わせ場所には、ケヴィンさんが先に待っており、すぐにミレイさんがやってきました。
「じゃぁ、行きましょう。それで、シュウ君は何をご馳走してくれるのかな?」
「私は先日着たばかりですのであまりお店は知りませんが、知り合いから紹介された店がありますのでそちらに行こうと思います。」
「へぇー。そりゃ楽しみだ。」
一昨日、ワトソンさんに紹介して貰った店に向かうとケヴィンさんの顔がひきつっていました。
「ああ、確かにそりゃ、うまいわな。」
「へぇ~、こういう感じの店なのね…早く入りましょう。」
ミレイさん、私、ケヴィンの順で入ると昼時を外れていたせいか、お客はまばらでした。
「あら、シュウさん。早速着てくれたの?」
「はい。お陰さまで合格しました。」
「うーん、流石はワッティーが見込んだ子ね。うちの子も受かっているといいんだけど…って、ケヴィン何してんのよ。」
「「?」」
「いや、あのな。ここ俺んちなんだわ。」
ケヴィンの実家である双翼の水場は元冒険者の夫婦が引退後に始めたお店で昔の仲間は勿論、地域の住民からも親しまれている。
昼はランチ、夜はディナー、深夜はバーのような形態を取り、夫はディナーから出てくることが多いそうだ。
「それであんたは受かったの?」
「見ればわかんだろ。」
「シュウさん、うちの子よろしくね。私と旦那で鍛えたんだけど、やっぱり学園に行くと不安でね。」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします。」
「そっちの友達もよろしくね。ケヴィン、姉ちゃん達のようにとは言わないけど、しっかりやるのよ。」
「わーてるよ。…まったく、ほら、飯だしてくれよ。」
「はいはい。じゃぁ、好きな席に座ってくださいね。」
ケヴィンは深いため息をついた。
「まさか俺んちとはおもわなんだ。」
「世間は狭いですね。」
「まったくだ。」
出てきた食事に舌鼓を打ちつつ、各々の準備に影響がでない時間まで談笑して一時解散となった。
その後、宿に戻って手紙を書きました。
ペルよりも紙は安いですが、現代と比べれば遥かに高価だ。
内容は、試験を突破したことと部屋番号を記載するもので、これはペル伯爵に受かった際は送るようにと指示されていた。
「荷物も持ちましたし、行きましょう。」
元々、荷物は殆どありません。
かさ張るものと言えば、精々簡易洗濯機位でしょうか。
衣類もペル伯爵のご厚意でそれなりの品質のものが揃っております。
「よっ、早かったな。」
「ケヴィンさん。」
「おいおい、さっき言ったろ。ケヴィンでいいって。代わりにお前の事もシュウって呼ぶからよ。」
「…では、ケヴィン。そちらこそ、早いですね。」
敬語が抜けない私に肩を竦めながら軽く笑っていました。
「まだ、時間があるだろ?修練場で軽くやらないか?」
「まぁ、荷解きは後でも出来ますし…胸を借りるとしましょう。」
体が鈍っていないか不安でしたのでケヴィンの厚意に乗ることとしました。
部屋に戻って剣をロッカーの鍵付き保管庫にしまい、動きやすい服に着替え、修練場へ向かいました。
「流石に誰もいないか。」
「気にせず出来て良いですね。」
ケヴィンは訓練用の槍を私は木剣を持っています。
「ルールはどうします?」
「軽く体を動かしてから決めようぜ。じゃぁ…いくぜ。」
シッ……。
槍が一呼吸の間に三突き。
しかも、牽制、誘導、攻撃の役割を意図した動きで放たれ、最後の攻撃の役割だけを弾くことは出来ました。
「ヒュゥ♪」
加減をしたのでしょう。
彼にも余裕があるようです。
異能は…止めましょう、フェアではありません。
それから、30分。
ケヴィンの間合いに踏み込むことは叶いませんでした。
「………まいったー。降参だ。」
「降参?それはこちらでしょう?」
「いや、無理無理。途中からマジでやってんのにこちらの間合いで踏み込めねぇってどう言うことだよ。自信なくすぜ。」
ケヴィンは座り込み、プルプルと軽く痙攣している手を見せた。
「楽しかったですよ。ケヴィン。」
座り込んでいるケヴィンに手を差し出すと彼は掴んで立ち上がります。
「全く…これから頼むぜ、相棒。」
相棒…懐かしい響きです。
掴んだ手を握り直し、視線を交わしました。
それだけで言葉はいりません。
「…さぁ、歓迎会の前に水浴びをしてしまいましょう。学園で清潔は義務ですよ。」
「お袋みたいなこと言わないでくれよ。」
その後、水浴び後に洗濯機を見せたら、ケヴィンが大変驚いておりました。
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