1章第2話
ローウェン国立学園の一般入試は200人の募集に対して、その10倍の数が集まっていた。
先ずは筆記試験が行われ、机には鉛筆と白紙の紙と解答用紙、筆記具が用意されている。
2枚の紙には、インクで事件番号がスタンプされていた。
「受験者諸君、これより一般入試試験を開始する。方法は知らせてある通り、試験官が問題を2回読み上げる間に選択肢の番号の四角を黒く塗り潰すこと。1つの問題の回答に2つ以上印を付けた場合は不正解と見なす。また、試験時間終了後に回答を記載するなどといった当学園に相応しくない行為をしたものについてはその時点で失格とする。では、試験官の皆さん、お願いします。」
マークシート方式に近いやり方だが、問題を読み返せない不安感が緊張感を高めていった。
「そこまで。1時間後に筆記試験の結果を正面玄関に掲示する。退出後それまで休憩とする。」
問題は国語、算数、社会の3部構成でおおよそ、100分の試験時間だった。
内容的には普通高校に入学できる程度の学力があれば問題ないだろうが、社会ばかりはこの世界の常識的な部分だったため、老師の授業が参考になった。
観察眼を使えば、試験官から答えを読み取ることは可能だったでしょうが…発覚した時に面倒なので切っておいてよかったですね。
筆記試験で2千人から4百人にまで受験者が減っていた。
「筆記試験を通過した諸君。これより、身体検査を行う。これより、4つの班に分かれ試験官の指示に従うように。」
「1班は番号1番から300番までの者は私の前に並ぶように。」
「2班は301番から1192番までの者は私の前に並ぶように。」
「3班は1193番から3800番までの者は私の前に並ぶように。」
「4班は今呼ばれなかった範囲の者となる。私の前に並ぶように。」
この試験に人生がかかっている者も多いためか、人の動く音がしばらく続いた。
「よろしい。先ずは、魔力測定を行う。各班5つ用意した測定器に手を10秒間置くように。」
説明はそれだけですか?
「あれ?知らない?」
「え、ええ。始めてみます。」
「そうなんだ。あれは、神殿には必ず置いてある魔力の測定器よ。手を置くと魔力を吸収して水晶の中に光の層が出来ていくの。」
「そうなんですね。ありがとうございます。」
「いいわよ。私はミレイ。貴方は?」
「シュウです。どうぞよろしく。」
「こちらこそ。」
握手した手から違和感を感じ取った。
それは、闘志とも執念とも取れる熱意だ。
他の受験生の様子を観ると必死に計測器であるガラス玉に力を込めているようだった。
…真似するべき?いや、ミレイさんが私の様子を後ろで伺っています。
それにトップで合格しろと言われてもおりませんし、気楽に手をのせることにしましょう。
「次の者。」
「はい。」
「体力測定では、番号が更新される。筆記試験の受験票を提出したまえ。」
「お願いします。」
受験票をグループが渡すと同時に計測器に触れた。
「………1、1、1、4…2。」
新しい受験番号④ー94を渡され、次の計測に向かった。
「次は筋力の検査となる。試験官は準備にかかれ。」
用意されたのは小振りの樽で中には液体が入っていた。
重さはおおよそ50キロ。
それを10メートル程先の円に運べれば合格となる。
その次は持久走。
試験会場となっている中庭から外へ出て外周を一周してくる。
そして、最後は持久走から帰ってきたものから準備に中庭に隠されたコインを探すという試験となっていた。
持久走からは先頭有利となるが、この一般入試に貴族の子息は入っておらず、有利を取る幸運も不利を覆す実力として評価される。
「④ー94番、凄いですね。」
「彼か?普通の青年にしか見えないが?」
「見た目はそうですが…。」
「魔導技術科の講師からすると光るものがあると。」
「ええ、まぁ…勘ではありますが。」
「ふっ、貴方が勘に頼るとは面白いことがあるものだ。」
「恐縮ですな。」
そんな会話があったことなど本人は露知らず、筋力測定を1回でパスし、持久走ではほぼ最後尾からトップテンまで順位を上げた。
「さて、諸君。最後の項目だ。箱の中から1枚カードを取り、同じ色のコインを持ってくるのだ。それが出来たものから今日は解散とし、明日の明朝に発表を確認してほしい。」
箱から取り出したのは黒いカードだ。
それを観た試験官が、無表情を装いつつほくそ笑んだ。
異能・観察眼
(外れを引くとは運がない奴だ。黒は最も数が少なく、ひねくれた場所にしかない。トップテンまできたのは…)
「試験官殿。」
「…何か。」
「お足元を失礼しても?」
「!?」
その試験官が黒いコインを踏みつけていた。
丁度その位置は試験範囲ギリギリに入っている。
「よろしい。君受験番号は?」
「④ー94です。」
「ふむ。確認した。それが合否を確認する為の番号となる。明日、また着てくれ。君の武運を祈る。」
「ありがとうございました。」
こうして長いようで短い、久しぶりの受験が終わった。
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