1章第1話


「お嬢様、到着いたしました。」

「わかりました。」


王都はペルとは比べ物にならない程の人で溢れていた。


「では、シュウ様。後日お会いしましょう。」


セラフィーヌとはこの旅で普通に話すまでの仲になっていた。

彼女とメイドは学園の寮に入って明日の準備を行う。

明日の夜は既に入学が決まっている者達のパーティーが行われる予定だ。

その一方で昼間は一般の入試が行われ、私はそちらの方に出ることになっています。


「シュウ殿。これから、入寮までの宿へ向かいます。」

「お願いします。」


ワトソンは昔ここで生活していたことがあり、ペル伯爵の使いでたまに来ることがあるのでここの地理に明るい。

幸い着いたのが昼前だったので、街を簡単に案内してもらえた。


「いやはや、何とか前日に着くことができましたな。これもシュウ殿のおかげです。」

「ははは…。」


まさか、旅の途中で盗賊に3回も会うことになろうとは思ってもおらず、馬車の故障にも見舞われて到着がかなり遅れていた。


「ワトソンさん、これをペルの木工所の親方から貰ったのですけど。」

「…ほぉ、これはまた…。」

「わかりますか?」

「ええ。大変腕の良い方ですよ。」


談笑しながらその場所へ向かうと向かうと表通りの一画に店を構えていた。


「いらっしゃいませ。久しぶりですね、ワトソンさん。」

「はい、ジュリアさん。」


旧知のなかのようで細身の女性は特徴的な容姿をしていた。


「シュウ殿、こちらはこのお店の主のジュリアさんです。」

「ジュリアです。ワトソンさんのご紹介なら喜んで。」

「まぁ、私の紹介でもいいのですが…ふっ、シュウ殿あの手紙をお借りできますか。」

「はい。」


手紙がワトソンさん経由でジュリアさんに渡ると彼女は目を丸くした。


「あら、あの兄弟からの紹介なんて珍しい。このお店は普通の冒険者とかだと少しお高いけど大丈夫かしら。」


店内は服が展示されている。

だが、量販店というわけではないようだ。


「シュウ殿、ジュリアさんのお店は魔法の道具を売っているのです。特に衣類が人気なんですよ。」

「ええ。自慢の品よ。物にもよるけど最低金貨1枚からかしらね。」

「金貨1枚…。」

「貴族様がお得意様でね、身の安全は大事だけど、鎧を着れない時ってあるでしょ?そういう時の為に重宝しているみたい。」

「おそらく2人は防具を使われないシュウ殿の身を案じたのではないのですかな。」

「えっ?冒険者なのに防具を持っていないの?」

「はぁ…何も言われませんでしたから。」

「きっとFランクで町の仕事をよくこなされていたからでしょう。」

「?」


店主は首をかしげた。


「学園に合格すればしばらくは制服ですが、実習や休日に冒険者の仕事をする場合は私服ですので準備しておいた方がいいかもしれません。」

「先ずは受かってからですね。」

「そう、受験なの、頑張ってね。」


ジュリアさんのお店を出て、次はギルドへ向かいます。


「…大きいですね。」

「王都のギルドですからね。大きさだけは国はおろか、大陸でも有数ですよ。」


中に入ると人はいますが、思ったよりも静かです。

ですが、ワトソンさんの執事服を見てざわつき始めました。


「おい、団長に連絡しろ。」

「燕尾服だ。これは、大仕事にありつけそうだぜ。」


ワトソンさんはやれやれといった感じで受付に進んでいきます。


「申し訳ありません。約束はとっていないのですがグランドマスターは居ますでしょうか?」

「グランドマスターでしょうか?お仕事の依頼でしたらギルドマスターがお伺いしますが?」

「いえ、個人的な用で来たもので。」

「は、はぁ…少々お待ちください。」


受付は奥に消えた。


「ワトソンさん。さっきのは?」

「あれは、クランの連絡員でしょう。貴族からの仕事にありつこうとしているのです。」

「あー、誰だよ…燕尾服の老人って…そんな知り合い……いたわ。」

「久しぶりですね、オークス。」

「………ああ。あんたもな。まぁ、何だとりあえず奥へ。」


グランドマスターは私達を個室に通しました。


「……はぁ。」

「きちんと仕事をしているようですね、オークス。」

「…先輩。来るなら来ると連絡してください。」

「それでは、貴方の性格的に取り繕うでしょう。一応、推薦したのは私ですので、目が黒いうちは気にもするというものです。」

「そう言うところは、変わりませんね…。それで今日はどのような用ですか?」

「ええ、こちらの方を紹介しようと思いましてね。シュウ殿、この男はローウェン王国ギルドの長、グランドマスターのオークスと言います。」

「あー…ご紹介に与った通り、グランドマスターのオークスだ。」

「シュウです。」

「若いのにしっかりしていそうだ。」

「少なくとも貴方よりはしっかりしています。」

「…それで、先輩。シュウ殿を紹介と言うのはどういう意味ですかね?」

「直ぐにわかると思いますが、問題が起こる前に知っていた方がいいと思いしましてね。」

「?」


こほんと1呼吸間をおいた。


「シュウ殿はFランク。ギルドでは最低のランクです。別に特別扱いしてほしいということではありません。これは助言のようなものですが、シュウ殿は高い教養と人徳は騎士に推薦したい程で、特に武勇は私の全盛期を凌ぐでしょう。」

「騎士って…というか、全盛期の先輩を?」

「はい。歳をとって鈍ったつもりはありませんでしたが、シュウ殿と出会って再び鍛え直そうと思っているところです。」

「…そういえば、王都のオークションにゴブリンロードの魔核が持ち込まれたんですよ。」

「ほう。」

「幾らになったと思います?」

「状態次第でしょうが、オークションなら金貨5枚くらいでしょう。」

「ええ、普通なら。ですけど、その魔核の状態が普通じゃなかった。傷1つない最高の状態の魔核は魔導師からすれば垂涎もののようで、端数をしょっぴいて金貨10枚になりました。」

「なるほど。」

「……先輩。今日はありがとうございました。」

「いやいや、年寄りの冷水かと思いましたが、役立ったなら何よりです。」

「シュウ殿も王都に残るようならギルドを贔屓にしてほしい。」

「はい。こちらからもよろしくお願いします。」


グランドマスターとの対面が終わって受付の外に出ると人数こそ変わらないものの、人間が変わっていました。

私達とすれ違うと大半が受付に流れ込みます。

話し声から仕事内容や報酬について聞いているようでしたが、受付から返ってくるのはそのような依頼はありませんの一言です。


「…白豹?」


受付に向かわなかった1人の冒険者がそう声に出していました。


ギルドを出てから、前祝いということでワトソンさん行き付けの店を幾つか紹介された。

残念ながらアルコールは飲めなかったが、どの店も大変美味で良い居心地だった。


「ワトソンさん、色々とありがとうございました。」

「いえ、お気になさらずに。私は明日の早朝に発たねばなりません。不要かと思いますが武運を祈っております。」


ワトソンはその言葉通り、明朝の日の出と共にペルへ向かって馬車を走らせていった。

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