第11話
家を賜ってから1週間。
私は今までよりも仕事のペースを抑えて家にいることが多くなりました。
まず、ジョンさんが地下に残した本はどこにでもあるような内容でしたが、それに細工がしてあり、眼鏡をかけることで魔法の知識を教えてくれました。
「ふぅ…本はいいですね。心が休まります。」
もっとも魔法の知識よりもその本本来の内容が面白く、ついつい読みふけってしまうのです。
コンコンとノックの音が家に響いた。
本を枕の下にしまってからリビングの方に出て、玄関の扉を開けると伯爵の執事ワトソンが立っていた。
「どうしました?」
「主人から手紙を預かって参りました。」
「はぁ…まぁ、とりあえず中へどうぞ。」
「いえ、このまま待たせていただきます。」
「そうですか。なら、読ませていただきますね。」
手紙を読もうと目線を下に落とすとワトソンがいきなり蹴り上げてきた。
最初からどこか様子がおかしかったので異能で考え事を読んでみると『蹴り』『奇襲』と断片的に見えていたので、それをかわして剣に手をかけながら彼の懐に入った。
「…なるほど。これがテストというわけですか。」
「…はっ。申し訳ありませんでした。」
「領主様の命でしたら、致し方ないでしょう。それで、合格でしたか?」
「はい。文句のつけようがございません。」
手紙にはこれからテストが行われることとが書かれているだけだった。
「シュウ様。主人から合格した際は御足労願うよう申し使っております。」
「ええ、わかりました。」
もう夕方に差し掛かっている。
帰ってきてから作っては面倒な時間だ。
…今日の夕食は外食ですね。
ワトソンとともに馬車で領主の館へ向かった。
「まずは、試験を突破してくれたこと嬉しく思う。」
領主の言葉に黙礼で答える。
「まぁ、かけてくれ。」
前はボゥと一緒だったが、今日は1人での対面となっている。
「実は冒険者の依頼を越えた依頼をシュウ殿に任せたいのだ。」
「それはどのようなものなのでしょう?」
「ローウェン国立学園を知っているかね?」
「名前だけでしたら。」
「結構。王国の子女で15になった者が通うことができる場所で貴族の子等はここで交遊関係を持つのだ。普段であれば遊学でも構わんのだが、今回ばかりは娘に頑張って貰わねばならない。」
「と、いいますと。」
「陛下の御息女も今年入学されるのだ。学園は成績順でクラスを分ける。そこに身分の差はなく、御息女と縁を作る事ができるかもしれん。だが、それは皆が考えること。不用意に近付いたならば、杭を打つかのごとく娘の学園生活は散々なものとなるだろう。」
「その防波堤となり、2人が仲の良い学友と成れるよう手助けを行えと?」
「察しがよいな。シュウ殿に依頼するのは難関とされる一般入試を突破してもらうことになる。私の紹介状では入試を受けさせるところまでしか意味をなさないのでな。」
「報酬をお聞きしても?」
「ここに明記した。」
「…破格かと。」
「この町は海運の要所といってもいい。それが伯爵位が治めていては伯というものが少し足りないのだ。それと、この依頼が完遂されたならば、以前言っていたそなたの願いもかなうやもしれん。」
「…なお、やる気が湧いて参りました。」
まさか、この歳になって入試を体験することになろうとは…人生わからないものですね。
領地様から夕食をご馳走になり、自宅に帰る際は馬車で送ってもらいました。
明日から、入学に向けた準備で1ヶ月を過ごすこととなります。
「賃金をいただきながら、勉学に励める機会とは…。」
昔を思い出します。
…あの時の失敗をしないように気を引き締めねばなりませんね。
翌日、領主の館に向かい、領主への挨拶を済ませるといよいよ一緒に入学する御息女と対面する事となりました。
「セラ、入るぞ。」
「はい。」
中には少女と家庭教師でしょうか、初老の男が待っていました。
「昨日話したシュウ殿だ。」
「初めまして、シュウ様。私はペル伯爵が娘セラフィーヌと申します。どうぞ、セラとお呼びください。」
「シュウです。どうぞ、よろしく。」
「では、よろしく頼むぞ。」
この日から授業、授業、授業、雑事、授業の毎日を乗り越え、私はペルの町を出立するとなりました。
「シュウ殿のお陰で老師が随分しごかれたようだ。これなら、末っ子の勉学も安泰だ。」
「恐れ入ります。」
「それと、受け取った書類も夏までには形にできそうなものは行っていくつもりだ。楽しみにしていてくれ。」
「はい。」
馬車に乗り込む前に町の人達としばしの別れを惜しみました。
「頑張ってこいよ。」
「ギルドとしては直ぐに戻ってきてもいいからな。」
「お2人は気楽でいいですな。我々はシュウ殿山程宿題を残されたのですぞ。」
「全くです。まぁ、神殿がもっとも忙しくなるでしょうが。」
「…職務ですので。シュウ殿、神の導きがあらんことを。」
挨拶を済ませていくと親方と鍛冶師さんから1通の手紙を渡されました。
「もし、必要になったらそこへ行け。」
それ以上の事は言われませんでしたが、余裕ができたら行ってみることにしましょう。
「では……行ってきます。」
馬車は私とセラさん、それとメイドを1人乗せて王都へ向かって動き始めました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます