第10話

数日後、私はボゥさんに連れられて、領主様の館に向かいました。


「今日は良く召喚に応じてくれた。嬉しく思うぞ。」


この町の領主であるペル伯爵からお誉めの言葉をいただきました。


「そなたの働きで町の問題点が解決されていると実感している。」

「ありがとうございます。」

「今回の騒動の解決の褒美を与えたい。願う報奨があるなら言うがいい。」

「では、1つ願いがあります。」

「ほう?その願いとは?」

「今回の報奨、奴隷の存在なしではあり得ませんでした。それを踏まえまして、子供の奴隷制度の早期解放について御一考願いたく存じます。」

「それが、そなたの望みと?」

「はい。」

「…。」


領主様が手を叩くとお盆をもったメイドがやってきました。


「先ずは金の話だ。ゴブリンロードから採取した魔核、これ金貨2枚で買い取る。」

「金貨…ですか?」


銅貨1枚が千円だとして、大銅貨が五千円。

銀貨が一万円、大銀貨は十万円くらいだというから…。


「金貨は大銀貨10枚分だぞ。」


ボゥさんがぼそっと呟いた。


「ぇっ。」


…二百万円?


「更に討伐の報償として大銀貨5枚。」


二百五十万?


「次いで口止め量として更に大銀貨5枚。」


三百万円?


「計金貨3枚。次は…これか。」


書類が出てきました。


「これは今までの政策についての報酬とする。」


書類には番地が書かれています。


「この町の土地の一画とそこに建つ家の権利書となる。更に税については100年分免除とする。」


百年分、無税?


「さて、これがそなたが行った事の成果である。それでそなたの願いであるが…この国の法に抵触するため叶えることはできぬ。」

「…いえ。」

「ただし、この町の自治内において、成人までに奴隷となった者が、その罪を清算したと認められた場合において、他の奴隷との隔離を行うものとする。今後議会で仔細を詰めるように。」

「はっ。」

「さて、今日はご苦労であった。これからも頼むぞ。」


領主様の館から出ると、今度は執事の方の案内で先程頂いた家に向かうこととなりました。


「こちらは先代の領主様と懇意にされていた画家の方が所有していたアトリエとなります。手狭ではございますが、お1人暮らしでしたら問題はないかと思われます。」

「…。」


言葉になりません。

確かに領主様の館と比べれば小さいですが、1階にダイニングキッチンと1部屋、2階に4部屋あります。


…前世ではアパート暮らしでしたから、どう扱っていいかわかりませんね。


階段を上がったところの窓を開けると潮風とともにペルの町が一望できた。


「おい、シュウ。せっかく領主様から家を貰えたんだ。ギルドで使っている部屋は引き払ってくれよ。」

「はい。本日中に引っ越します。」


どうやら、今日は引っ越しで1日が終わりそうだった。

家の整理が終わるころにはすっかり夜になっていた。

私室として整理していた1階の部屋にある新しいベッドに寝そべった。


「…ん?」


寝転がることで見えた転じようには久しく見ていなかった文字がうっすらと刻まれている。


床下


「下?」


注意深く床を見ていくとベッドの真下の部分に違和感を感じ、色々さわってみると板のように持ち上げられた。

そこには近くに続く階段が整備され、地下部分に続いている。

何があるかわからないので、剣とランプをもって降りていくとそこは画家のアトリエと言うよりも研究者のラボのようなものが備わっていた。

机の上に残されていた1冊の本を手に取った。

題名はなく、最初のページを捲る。


「漢字…当て字の部分もありますが、これならこちらの人達は読むことすら出来ないでしょう。」


この本によると前の持主である画家ジョンは、経緯は不明ながらも同じような世界からこちらに来た学生だったようです。

彼は美大生で新しい世界に感動し、魔物との遭遇で絶望を味わいました。

それは自分が夢見たような場所ではないと理解させるには十分な出来事で、魔物との戦いで瀕死の大怪我負ったそうです。

彼はその場を発現した魔法で切り抜け、傷を癒してから人里を目指しました。

彼は直ぐに自分の魔法が異質だということに気付き、人前での使用に注意を払うようになります。

ですが、美大生がこの世界の力無しに生き抜くには難しい過ぎ、彼は街で見かけた魔法の道具『アーティファクト』の作成に挑み、ある程度の形になったことで生き抜く術を得ました。

ですが、それが新しい火種を生む結果となり、彼は錬金術師エドと画家ジョゼフの2つ名を使い国を渡りながら人生を過ごしていき、晩年ここにたどり着きました。

本には自分が残した技術を次の同胞に引き継ぐと書き締められていました。


眼鏡?


本の最後の方が固められ、眼鏡が入る大きさにくり貫かれていた。

それは度が入っていないもので、それをかけて改めて最初のページを見てみると所々文字の色が変わっている。


ん?これは…。


『ワタシノケンキュウセイカヲローウェンコクリツガクエンニノコス』


ローウェン国立学園ですか…きっと縁がない場所でしょうが、機会があったら行ってみたいものです。

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