第8話


「少しよろしいですか?」

「あん?なんじゃ、お主は?」

「私はシュウ。冒険者です。」

「冒険者さんか。それはそれは、奴隷のワシになんかようかの?」

「ええ。さっき奇跡の芋と仰っていましたが、それは何なんです?」

「なんじゃ?知らずに作っていたのか?」

「ええ、十日芋という名前は聞いておりましたが。」

「まぁ、確かに10日で実るじゃろう。何せ奇跡の芋じゃからな。」

「なぜ、奇跡の芋というのですか?」

「それは、ワシ等緑人族に伝わる伝承でな、この芋が黄金の都を支えたとされるからじゃよ。」

「黄金の都…。」

「その気になれば、この芋1つで万の人の腹を満たすことが出来たそうじゃよ?」

「へぇ~。」

「久しぶりにいいもん食わせてもらって満足じゃ。」


緑人は満足そうに他の奴隷と一緒に住みかへ戻って行きました。

これから数日、彼等の様子を観察して、問題がなければ町人組合の畑や果樹園の設立に使用されて行くことになります。


「あの緑人さん、農業について色々知っていそうでしたね。」


商人組合長のテンさんに相談したところ、彼は力仕事は出来るものの荒っぽい事は苦手で、他の犯罪を犯して奴隷となった者達とはうまく馴染めていないということでした。


「芋と酒…刺身と醤油が欲しくなる組み合わせですね。」


独り言を呟きながら、今日の仕事に向かって町を歩き始めます。


「燃料が足りない?」

「ああ。今、捨ててきた糞を焼いているだろ?あれに廃材が集中していて町に配る炭が足りなくなってきている。」

「それように木を刈ってみるとか…。」

「それを巡って職人組合と商人組合がもめているんだよ。木こりは職人組合の傘下だからな…。それで、お前あの緑人の奴隷と顔見知りなんだって?」

「はぁ、まぁさっきまで話していた程度ですが。」

「緑人は植物の成育に詳しいと聞く。あいつをうまく煽てて何とかしてくれないか?」


と言うわけでで戻って来たわけです。


「確かに、ワシ等にはそういった力がある。しかし、それを行えるだけの魔力がないわい。」

「どうしたら、その魔力を手に入れられます?」

「そだのぉ…。奇跡の芋3つで大木1本と言ったところか。」

「なるほど。」

「それと、条件と言うか頼みがある。」

「伺いましょう。」

「子供達を重作業から外して欲しい。あやつ等は親に借金のかたに売られただけじゃ、もう少し違う仕事を回して貰えぬか?」

「出来るかわかりませんが、商人組合と話し合ってみます。」

「…すまん。」


早速、組合に話を持っていきます。


「確かに、今木材が不足気味なのは間違いないです。ですが、それも領地拡大が済めば収まる話です。特別何かする気にはなりません。」

「そうでしょうか?」

「ええ。」

「十日芋の独占が出来たとしても本当にそうですか?」

「…なるほど、シュウ殿が他の長から気に掛けられているのが少しわかった気がします。」

「ありがとうございます。」

「シュウ殿、この後のご予定は?」

「特段ありません。」

「では、少しお付き合いを。誰かいないか!」


テンは使いを走らせ、緑人を呼び出しました。


「早速で悪いが、お前がシュウ殿に出した条件について話をまとめていきたいと思っている。」

「へい。」

「まずは十日芋の件だが、知っている事を話して貰おう。」


緑人は奴隷の首輪をされているので、言葉使いはともかく、主人として登録されているテンの質問を拒否することが出来ない。


「あれは、奇跡の芋と呼ばれ、地中の養分と魔力を吸う代わりに土が豊かならその場に何度植えても悪くならない芋だ。」

「!?」


連作障害が起こらない?


「そうか。次に子供の奴隷についてだが、お前はどのような仕事が望ましいと思う。」

「…糞転がし、鉱山遠征、舟周りは無理だ。」

「どれも奴隷の主要用途ではないか、代わりになる仕事はないか。」

「…思い付かん。」

「組合長、よろしいですか?」

「ええ、どうぞ。」

「十日芋の栽培を子供達にやらせるのはどうでしょうか?それと切り出す木材の搬送も彼等に行わせるのです。」

「木材はともかく芋の栽培は、数を誤魔化されかねません。」

「いいではないですか。誤魔化されても。」

「は?」

「今回の実験で1つの蔦からどれだけ取れるかおおよその数がわかっています。植える数だけ管理…そうですね、紐を畑にはって植えた数から収穫数の概算を取る。それ以上のものは奴隷に配ればいいのです。」

「シュウ殿。奴隷は所有者の持ち物であり、罰を受ける対象でもあるのです。」

「ええ。ですから、長持ちさせる為に子供のうちはある程度食事をさせるべきです。それと、漫然と作られては品質が下がるかもしれません。最初に出荷できる芋の大きさを決めるのはどうでしょう?」

「大きさを決める?」

「はい。例えば組合長でしたら、子供の拳の大きさと大人の拳の大きさの同じ芋でしたらどちらを買いますか?」

「……なるほど、理解しました。でしたら、その品質に合わないものは、どうします?」

「種芋や奴隷の食事に回してもいいでしょう。」

「そうですか。………おい、喜べ。明日から仕事を変える。まずは、畑作りと植樹からだ。」

「へ、へい!」

「シュウ殿。今日はこの辺で失礼させていてだきます。土地の手配やらしなくてはなりませんので。それと、明日またお会いできませんか?先程の酒の話を形にしたいのです。」

「わかりました。同じ時間でもよろしいですか?」

「お願いします。」


翌日から行われた緊急的な措置により、ペルの町の燃料不足の危機は回避されました。

一応、職人組合が商人組合に対し、抗議はしたものの「緊急的なもので消費が落ち着けば停止する」と説明して職人側も渋々俟納得しています。

そして、木材供給が落ち着き、私がFランクの仕事に精を出している頃に事件は起こりました。

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