第7話
施設はかなりの速度で作業が進んでいました。
今までになかった概念となる今回の工事が職人達の創作意欲を刺激しているのかもしれません。
工事区域周辺の警戒の仕事はばらつきもありますが、5日に1回程度です。
他と比べると安全な割に報酬がいいようで、ギルドが管理しないと独占される勢いのようでした。
そして、1ヶ月ちょっとで施設が完成しました。
大きさ的には失敗したときの事も考慮してたいした規模ではありませんが、肥料の原料となる糞尿を機械的に混ぜるために裏側には水路と水車が設置され、壁は熱に強い煉瓦で作られています。
肥料棟とは別に今まで放置してきた廃棄物の処理棟も作られており、燃料若しくは魔法による燃焼で土に還す試みを行っていくそうです。
しかし、ここの領主様は中々先進的な方なのでしょうか?
それとも、領地問題が目の上たんこぶでは無く、致命的な腫瘍なのでしょうか…
異能を習得してから注視するだけ他人の考えていることがわかりましたが、それも慣れというもので、今では容易に切り替えができています。
「湯気が上がっている…どうやら、発酵は行われているようですね。」
知識だけではここが限界ですね。
後は、試しながら使ってもらうしかないです。
話を聞いたところ、過去の廃棄物の処理はうまく行っていると言うことで、取りきれなかった物はその場で神官達によって焼却された。
焼き払われた廃棄物は肥料としては使えないものの、今まであった悪臭はかなり軽減しています。
しかし、なぜ今まで放置されてきたのでしょうか?
「ああ、それは簡単ですよ。」
チョウさんが答えてくれました。
「今回は、神官と領主様の意向がうまく噛み合ったことが理由ですね。」
「今まではうまく噛み合ってなかったんですか?」
「シュウさんのおかげです。領主様は糞尿の始末について先代からの負の遺産と言っていました。毎年、奴隷を殺す仕事を安全に行えるのは町の利益になると言っていましたよ。」
「神殿の方はどうなんです?」
「あちらはあちらで、邪魔なものが失くなれば住人が増えると言われている町です。そうすれば、税金が多く取れて自分達の給金が増えるのですよ。」
なるほど、領主様は公共事業に積極的なお方のです。
「他の町では、奴隷に大きな穴を掘らせてからそこに捨てていくらしいですよ。」
「どんどん、大きな山になりそうですね。」
「ええ。そうならないように王都の神殿の総本山である大神殿から高位の神官を招いて浄化して貰うそうです。その費用が非常に高額で、ひどい村では川に流したりするらしいですよ。」
「川にですか…それは怖いですね。」
「そうですね。この町でも先代が金に困ったのか、海に捨てさせたところ大きな事故がありまして…。」
「そう。先代の領主は海の怒りをかったのさ。」
「会頭。」
「町長、あんまり余計なことを言うもんじゃねぇな。」
「…余計なことではないでしょう。シュウさんのお陰で海を汚される心配が減ったのです。それは喜ばしいことですし、それを導いた人にはそれなりのことを伝えなければ。」
「…ふんっ。シュウ、あんたの知恵を借りたい。手が空いたら漁港まで頼む。」
レベッカはそのまま去っていきました。
「…では、私もこれで。」
「ええ。それでは、また。」
レベッカの様子も気になりましたが、仕事がいくつか入っていたので、それを片付けてから向かうと夕方になっておりました。
「おお、ようやく来たな。」
「申し訳ありません。」
詫びを入れてから、仕事の話を聞きます。
「ああ。あんたが編んでくれた網のお陰で近場での漁が調子がいい。だが、以前と比べると勢いが落ちてきた。」
「…なるほど。」
「商売は命あってのもんだ。その為にあんたの知恵を借りたい。」
「そうですね…すぐ思い付くのは2つ。」
「ほう。」
「餌を増やすか育てるか。どちらも時間がかかるか手間がかかりますが。」
「…どれ、事務所で詳しく聞こうか。」
提案したのは湾内へ通じる水路を引きその周辺に樹木を植えて葉っぱや果実等が水路を通じて湾内に流れ込む仕組みを作ることと湾内に養殖用の区画を作ってそこで養殖を行うことの2つです。
町周辺に果物を育ている場所はあるものの、アクセスがうまく行かないのと廃棄物処理場の水車に使っている水路のお陰でそちらから水を引いてこれそうでした。
「それで?あの肥料とやらを使うのか?」
「嫌ですか?」
「…安全と言われてもいい気分ではないな。」
「…なら、試してみればいいのでは?」
「試す?」
「弱っている奴隷がいるでしょう?それらに肥料を使って作った物を食べさせてみればいいんです。もし、食べて死ぬなら弱っていたので仕方無し。体調が回復すれば、肥料に問題はなし。どうですか?」
「…丁度定例の会議出しな。議題にかけてみるか。」
会議後、会頭に結果を聞いたところ、奴隷を実験台に使うことが決定されました。
育てる作物は十日芋という名前の通り植えてから10日で実る凄まじい芋です。
その代わり、1回植えた土地では他の作物が育たないというもので別名『畑殺し』といい、非常時においてのみ育てる代物だそうです。
それを肥料を使った即席の畑で育てる事、10日…前触れ通り期日通りにジャガイモに近い芋が出来ていました。
「畑殺しがこんなに立派になるなんて…。」
本来は種芋のような粗末な芋らしいのですが、1つの蔦に立派な芋が複数実っています。
収穫して泥をきれいに落としてからは、商人組合に所属する料理人が蒸かすだけの調理を行って、選ばれた奴隷達に配って行きました。
もっとも、この頃には答えは出ていたようで蒸かした芋のいい匂いが周囲に漂っています。
更に、普段から腹を空かせている奴隷達が食べる姿が周囲の人間の心を打っていきます。
「あの人、皮膚の色が?」
「シュウさんは色人が初めてかい?彼等は色人っていって時々いる人間だよ。」
「色人…。」
私の視線の先にいる色人は緑の肌で一見するとゴブリンのようにも見えますが、それとは違い戦いには向いていないような体型をしています。
「色人は精霊様の子孫って言われていて、どの色人も基本的に小さく細身だよ。普通は自分達の里にいるんだけど、あいつは里を出てこの町で食い逃げしようとして捕まって奴隷になったんだ。」
「食い逃げで奴隷…ですか。」
「酒樽10個1人で飲んだらしいからね。」
「…。」
酌量の余地はないようですが、あのたべっぷりは何なんでしょうか?
「奇跡だ。奇跡の芋をこんなところで食べれるなんて、生きててよかった!」
奇跡の芋、ですか。
彼から詳しく話を聞くことにしましょう。
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