第6話

「利点ですが、まず奴隷の損耗が軽減されます。それは、施設を作ることで直接触れる機会を減少させるからです。次に今、廃棄に使っている土地を解放でき、領主様が計画しているという町の拡張にも役立ちます。更に、施設を作ることで排泄物を海に投じる必要がなくなります。あとは、処理した後に農業への活用できる可能性があるといったところです。」

「…会頭は凄い人を拾われたらしい。」

「…そんなに誉めるな。」


チョウさんは私の説明の句切りを狙って発言しました。


「もしかりに肥料として活用できなくても、他の種類の方法で肥料作りを現在試しているところです。」

「なるほど。仮に肥料とやらに使えなくても他の方法でそれは確保していると。」

「はい。その通りです。神殿としてはどうですか?」

「…少し、お時間をいただきたいと思います。」


神殿長は貴重な紙にびっしりと書き込んだものを持って議場を一旦離れた。


「神官長が戻ってくるまで休憩と…。」

「いえ、その前に確認しておいた方がいいでしょう。私達商人組合はこの提案に賛同し、資金を提供します。」

「職人組合もだ。うちからは必要な職人を斡旋する。」

「手が早いじゃねぇの。」


そう。

商人組合と職人組合には既に話を通してあった。

それはこの計画に必要不可欠な存在であるという点と他の2つはこの条件で折れるという目算がチョウにあったからだ。


「わからん話でもない。お前に腹芸は無理だからな。」

「はっ。違いない。だが、道化として使われたかいはあったと思うか?」

「…残念ながら文句は出んよ。我々全員が意見をまとめていけば嘆願になる。神殿はそれを隠してはくれないし、してはならない。」

「嘆願になれば、領主様の面子を潰しかねないほどの大事業ってことか。まぁ、うちとしては町の拡張は願ったりだ。」

「こちらのしても海に撒かれるくらいなら金を払うさ。」


納得した様子の2人だが、視線が何やらいたかった。


「お待たせしました。文官に確認しましたところ、提案には問題ないということです。これから、領主様へ直々に持参しますが、お付きは誰がなさいますか?」

「はい。」


チョウさんが神官長と共に領主の館に向かっていきました。

この工事は早くても年単位の期間を要する筈です。

その時、私がここにいるかわかりませんが、町の人の役に立ってほしいと願っております。


「と、思った事が私にもありました。」


何と、神殿が本部に当たる大神殿から呼び寄せた神官が行った魔法により1番時間がかかる整地と区画の作業を数日で終わらせてしまったのです。

今日は、この作業場所を中心に魔物狩に赴いています。

元々、町の周辺は魔物が少ないそうで、低ランクの冒険者は町の近くを見回る程度なので銀貨1枚と後は出来高払いの報酬です。


「この内容の仕事で銀貨1枚なら確かに危険を犯す人もいますね。」


そういえば、魔法、技能、戦技っていう知識はありますが、実際に使っているのを見たことがないですね…。

魔法の存在は神官の方が使っていたそうなので存在は間違いないようですが、私にも使えるのでしょうか?


「…。」


意識を切り替えましょう。


私の前方に魔物の代表例、ゴブリンが1体で現れました。

知識によると魔物の出現方法は魔力溜まりから出現するか繁殖して生まれるかの2つです。

前者は魔力溜まりの濃度で魔物の強さが変わりますが、世界中どこにでも発生する危険性があり、後者は割合的には少ないものの、強力な魔物が多い傾向にあるそうです。

特に高位の魔物は知力が高く、魔族と言い換えられています。

ゴブリンは、魔物の中では貧弱ですが、繁殖力が高く、取りこぼしは国を滅ぼしかねません。


呼吸を無音で整え、血流が足に酸素を満たしていきます。

今まで注意を周囲に向けていましたが、対象に集中させ、踏み出す姿勢を取りました。

姿勢とは至勢であり、条件が当てはまった時、結果から逆算された道筋の起点となるです。

顎先を狙う踏み込んだ一刀はその延長線上の首を通過し、ゴブリンに認識されないまま、頭と胴体が別れました。


「これは……やばい。」


鍛冶師が打ち上げた剣に驚きを隠せません。

鳥などの首を落としたことはありましたが、人の形をした生き物の首を切ったのはこれが初めてです。


『技能・心技体を習得した。』

『戦技・無影斬を習得した。』


ゴブリンを倒した証明として、右耳を削いでいると頭の中に音が響きました。


心技体と無影斬?

…どういうことでしょうか?


技能・心技体

呼吸、歩法、姿勢が揃ったとき大きな力を発揮する。


戦技・無影斬

相手に気付かれていないとき、こちらの1歩の間合い内で刃物をもって攻撃したとき大きな力を発揮する。


まるでゲームのようですね。

ですが、面白くなってきました。


死体を処理するために乾いてそうな木材を拾って、携行している火種で火を付けます。

死んだ魔物は何故か火を付けると簡単に焼失するそうで、聞いていた通りになりました。


…面白くなってきた?


自分な思考に疑問を抱きました。

私は殺し合いに理想や夢を抱かない人間です。

何せ、警察として十数年従事してきた者として、見なくてもいい現実を見てきた経験があります。

それを踏まえて、そのような思考を抱くとは…もしかすると若返った影響なのかもしれません。


「シュウさんもついに冒険者デビューですね!」

「まだ、1件だけですけどね。」

「これなら、ランクアップもすぐですね!」


ランクアップとは冒険者が受けれる仕事上限を上げる制度である。

現在Fランクの私は、同ランクの仕事を規定数以上行ったことで1つ上のEランクの仕事を受注することをギルドより許可されている。

FランクからEランクに昇格する場合、Eランクの仕事を10件達成することが必要となります。


「しばらくは警戒の仕事が多くなるので、終わる頃にはランクアップしてますよ!」


やたら、ランクアップにこだわりますね。


以前の職業柄、他人を観察することが多くありました。

その時、心掛けていたのは疑心観を持たないことです。

人間は1度疑い始めるとその方向に思い込んでしまうもので、そうなってしまうと中々印象が払拭されません。

ですので、観察した結果から判断することが重要となってきます。


『異能・観察眼を習得しました。』


(ふぅー、漸くランクアップが見えてきた。まったく、支部長も酷いわよね。シュウさんを早めにランクアップさせろなんて、仕事を強制できないんだから、そんなの無理に決まってるじゃない…それにシュウさんが実質この町のFランクの仕事を回してくれているのに、ランクアップしてFランクの仕事をしなくなったら、また元通りじゃない…はぁ……。)


異能・観察眼

相手を観察することで心理を読み取る事ができる。

ただし、相手が警戒している場合等は読み取るはできない。


私のランクアップを急がせる?

…何やら変な思惑が動いているのかもしれませんね。


そんなことを考えながら、ギルドの宿泊施設で日課の洗濯を行い、眠りにつきました。

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