第5話

「あっ…ぐっ……。」


残っていた4人のうち、唯一の女性を首を絞めて気絶させ、残りは打撃で昏倒して貰いました。


「お見事。」


パチパチと手を叩くボゥさんが、他の職員と一緒にやって来ました。


「よしよし、ちゃんと加減されているな。」

「見ていたのに、止めてくれないのですか?」

「知っているだろう?ギルドは冒険者同士のいざこざには不干渉だ。まぁ、元冒険者の助言としては、火の粉が降りかからないようにするべきというところか。」

「…彼等をお任せしても?」

「ああ。規律違反にはそれ相応の対応する。」


折角洗濯したのに、もう1度するはめになるとは…。


ため息を付ながら、ハンドルを回して明日に備えて休みました。

翌朝は洗濯日和の晴天でした。寝具を洗濯してから仕事に出掛けます。


「シュウよぉ、相談にのっちゃぁくれねぇか。」

「何ですか?」

「薬屋の先生からよ、例の箱に敷居をつけてほしい話が来たんだけど、何かいい方法はないか?」

「なら、こういうのはどうでしょう?」


漆は接着剤にもなります。

なので、部品を削り出し、板に張り付けてからコーティングする方法を提案しました。


「なるほどねぇ。ありがとよ、ちょっと見えてきた気がするぜ。今度礼をしねぇとな。」

「なら、親方。腕のいい鍛冶師を紹介してくれませんか?」

「ほぅ。どんなものを頼むんだ?」

「剣です。できるだけ頑丈なものだといいのですけど。」

「わかった。ついてこい。」


親方は店を閉め、鍛冶屋か並ぶ通りに案内してくれました。


「よぉ。」

「…ああ。」


鍛冶師の人は親方と顔がにていました。


「俺の弟だ。愛想はないが腕は俺が保証する。」

「シュウです。よろしくお願いします。」

「…ああ。」

「じゃぁ、俺は戻るぞ。」

「親方、ありがとうございました。」

「…うちは打ち出しの店だ。鋳造とは違って時間と金がいる。いいか?」

「わかりました。」

「…何を作ればいい。」

「片刃の剣で、長さはこれくらいでしょうか。抜きながら切り出し易さと軽さを求めます。」

「…何故片刃だ。」

「強度を求めるからです。」

「…わかった。背丈と腕の長さを計る。動くな。」


鍛冶師はそこら辺の棒で私の体に当てるとそこに印を付けていきます。


「…3日だ。それまでに仕上げておく。」

「ありがとうございます。代金はいくらでしょうか?」

「…銀貨5枚だ。」

「わかりました。」


今の宿が500回泊まれる額ですが、今の宿が安すぎるのが原因ですし、そのくらいの蓄えはあります。


「では、よろしくお願いします。」


鍛冶屋を後にして仕事に戻ります。

金を使う以上、稼がなければなりません。


「んー…増えてね?」

「よう、シュウ。」

「レベッカさん。」

「さん付けは止せ…そうだな、会頭とでも呼べ。」

「会頭、どうしました?」

「ああ、お前の網で良くこいつらがかかってな。浅瀬になったこともあるが、本当にこいつら食えるのか?」

「恐らく。」

「ほう。」

「ナイフをお借りしても?」


会頭のナイフを借りて1匹救い上げ、殻を割ります。

その中身を抉り出し、一応味見をしておきます。


「どうぞ。」


海水で手を洗い、片側に残ったものを指にのせます。


「どれ。」


会頭は私の指事口に含むとそれだけを持っていきました。


「ほう…これはいいな。だが、前割ったときは空だったぞ?」

「養分が足りなかったのでしょう。今は町人組合の菜園の廃棄物を撒いていますから。」

「そうか。…数が揃ったら料理人と調理法を模索してほしい。うちの領主は食通でな。他の町の貴族との会議の時に自慢するのが癖になっているそうだ。」

「わかりました。」

「針鼠も役立つものだな。では、頼んだぞ。」


ギルドに戻ると町人組合から依頼が着ていた。


「最近はFランクの依頼はシュウさんへの依頼のようになってきましたね。」

「そうですか?頼られているなら嬉しいですね。」


皮肉だったかわからないが、信頼は金では買えないのだ。

余所者としては苦労をしたとしても得ておきたいものである。


「立派な畑と風車ですね。」

「風任せなのが辛いところではあります。」


チョウさんからの依頼は穀物の収穫量についてだ。


「最近、この町での作物の取高が下がっています。ここは港町ですから、他の町からのものを使えば苦労しませんが、それでは戦時の時に食糧難になるとはオーウェン王国では港町でも一定規模の畑を維持するよう布令が出ているのです。」

「なるほど。それを町人組合で管理しているわけですね?」

「そうです。皆他に仕事を持っていて週に1度畑仕事の日があり、私がやり方を指導するのですが…最近は困り果てていまして。」

「なるほど。もしかすると連作障害や肥料が足りなかったりするのもあるかもしれません。」

「連作障害?肥料?ですか?」

「私も聞き齧った程度で恐縮ですが、連作障害とは同じ作物を同じ畑で作っていると取高が下がる現象のようです。肥料は作物の育ちを良くするものですね。」

「そ、その、肥料というのはどうすれば手に入りますか!?」

「チョウさん?」

「し、失礼しました。実は領主様から取高が下がっていることを気になされておりまして…。最近は柄にもなく神殿でお祈りをして願いを聞いてもらおうと思ってしまう始末です。」

「そ、そうですか…この町の状況から考えて小規模ですが、比較的安全で直ぐに行えることと、危険性があって時間もかかりますが、大規模に行えることの2つ提示できます。」

「なんと!」

「安全な方法としては、食べ残しや牧草等を家畜の糞尿と混ぜ合わせ、それを腐らせる方法です。危険性がある方法としては、人の糞尿を肥料にする方法ですが…。」


ガシッ。


「シュウさん。その危険性が高いという方法、知っているだけで構いません。会議の場でお話願えませんか?」


話がどんどん違う方向へ曲がっていき、私は再びあの会議の場に呼ばれることになりました。


「…どうだ?」

「いい感じです。」


鍛冶師から剣を受け取り、代金を支払います。


「…鞘とベルトは兄からだ。例は奴に言ってくれ。」

「わかりました。また、お世話になっても?」

「…構わん。」


3日待った剣を腰に下げて、会議が行われる神殿に出向きました。

今日は部室に行かずにそのまま議場に案内されます。


「皆様揃いましたでしょうか。町人組合から緊急会議を開かせてもらいます。」


参加者達が各々反応を示したところで議題が提示された。


「今日の議題は、廃棄物処理の現状と解決策についてです。」

「そりゃぁ、また…。」

「過激な問題だ。」

「はい。予てより、廃棄する地域の減少が問題となったおりましたが、いよいよもって時間の問題となって参りました。」

「確かに。それが原因で町の拡張計画も頓挫したからな。」

「はい。今回1つの解決策をシュウさんより提案していただきます。」

「なるほど。Fランクに指名依頼があったと聞いたがこういうことか。」


そう、俺はこの数日この問題のため、チョウさんと一緒に町を歩き回っていた。


「では、提案の説明をお願いします。」

「はい。私が提案するのは排泄物を肥料に転換する施設の建築です。」

「肥料…とはなんだ?」

「聞いたことがあります。学術の都では作物を劇的に成長させる方法を研究しているそうで、その研究成果が肥料という名前だとか。」

「先にこの提案の問題点について申しますと費用と危険性、それと意識の問題です。」

「費用はわかる。他は?」

「まず、危険性については、排泄物は放置すると人をも殺す事のできる目には見えない細菌を作り出してしまいます。それにより、毎年ドレイクがなくなっているそうですね?」

「ええ。その仕事に従事している奴隷は例年数人死んでいます。」

「糞尿は分解されると優良は肥料になります。それは無臭無害の土のようなものになり、畑に投じれば生産力の強化に繋がるでしょう。」

「ちょっと待て、畑に糞尿を撒くだ?」

「はい。それが意識の問題です。誰しもが、そう言われれば、そんなものを食べたいと思わないのが現実です。それが、この提案の簡単ではありますが問題点です。」

「理解が必要ということですな。」

「では、利点についてお話しします。」


一同の視線が強くなったのを感じた。

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