第3話

この世界は地球のように水が豊富で緑に溢れている。

私がいた時代と違うところがあるとすれば、文明の発達が鈍い事と人類の敵である魔物がいるところくらいだろう。

その原因はおそらく神への信仰の表れとされる恩寵が大きな要因となっている。

多神教の概念に近いこの世界では、一人一人が違う神を崇拝している。

例えば、商人であれば商売を司る商神を信仰していたりとかである。

さて、恩寵というのは、この世界で言う成人、12歳の時に神殿に祈りを捧げることで、それまでの信仰が表れる…そうだ。

その恩寵により、魔法、技能、戦技のどれか、若しくは複数の力を手にすることが出きる。

それは魔物に対する防衛や生活を豊かにするために必要な力だった。


この世界の常識が刷り込まれていくような気分でした。


学校は…あるにはあるが、貴族や豪商の子息だけが通えるのか。

王族や貴族の権力が強く、その庇護下に入れば権力闘争の道具にされかねない。


これは、知識と言うよりも経験なのでしょう…他にも色々とあるようです。


「…………しょっぱいな。」


私の意識が戻ったとき、海に浮かんでいた。


参りました…義足が錆びるかもしれません。


義足は日常生活に耐える強度と使用感を両立したもので殆どの部品が非金属で作られていましたが、金属の部品が無いわではなく、海は典型的な天敵だった。


おかしいですね…足の感覚があります。


失った筈の足がどういう訳か生えていた。

義足でも泳げない訳ではなかったが、流石に重さが違うので長距離を泳ぐには向かない。


港のようなものが見えますね…取り合えずあそこを目指しましょう。


久しぶりの水泳で何とか港に辿り着いた。


「よっ、と。」


上陸すると既に私の周囲は人で囲まれた。


「…何者だ。」


警戒されています。

まぁ、当然ですね。


「…船がシケで難破してしまいまして…ここはどこですか?」

「シケ?最近、シケなんぞなかったぞ。」

「…かなり流されたようです。意識が戻ったのもついさっきで、板に掴まって浮いていました。」

「…そうか、大変だったんだな。ここは、ローウェン王国領内のペルというは港町だ。」

「ローウェン王国、ペル…。」


知識にはない国と町です。


ぐ~~~~~~。


腹の虫が鳴りました。


「あの、すみません。何でもしますので、しばらくここにおいてもらえないのでしょうか?…見ての通り1文無しでして。」

「……ぷっ、ははは。全く雰囲気のない奴だな。いいぞ、今ちょうど飯を作っていたところだ。」


私を取り囲んだのは港で仕事をする人々で漁師や商人、料理人等々色々な業種の人達が集まっていました。

私が体を洗い流している間に食事が出来ていました。


「一杯食ってくれよ。後で働いて返してもらうからな。はっはっはっ!」

「ありがとうございます。」


カルパッチョとニョッキを合わせたような物が山盛り出てきます。

料理人は違う方向を向いてますが、こちらを伺っているようでした。


もぐもぐ…。


「旨い!」

「そうだろ、そうだろ。」


食後は約束通り労働が待っていた。


「んじゃ、網の修理を頼もうか。」

「はい。」


網の修理は海際の交番へ異動させられた時にちょっとした付き合いでやったことがあった。

ただ、その時よりも網の目が大きく、道具はないがそこまで手間はかからなそうだ。


「紐はこれを使ってくれ。足りなかったら草をよってくれ。」


麻の草を乾燥させた物が山になっていました。


「さて、やりますか。」


乾かしてある網の破れた部分を補修していきます。


「おーい、晩飯だぞー。」

「はい。」

「おっと、その前に網はどんな調子だ?」


漁師が網を確認していく。


「ほー、きれいに直っとる直っと…ん?これは誰の網だ?」

「草が余っていたので余分に編んでおいたのですが…不要でした?」

「い、いや、そんなことはないぞ。草はこの時期いくらでもとれるからな。ほれ、飯にするぞ。」


夕食の後に小屋に案内された。

ここは普段使われていないようでボロボロだったが、最低限の雨風は防げる。

今日はここで寝ろということだった。


早めに寝ましょう。

もしかすると、漁に付いてこいと言われるかもしれません。


そう思って直ぐに眠りましたが、朝早くに起こされることはありませんでした。


「おはようございます。」

「ああ、おはようさん。もうすぐ、皆が帰ってくるから、そうしたら水揚げを手伝ってくれ。」

「わかりました。」


帰ってきた漁船の水揚げ作業を手伝い終わると眼帯をつけた女性がやって来た。


「あんたが流れ着いたっていう余所者か?」

「はい。」

「アタシはレベッカ。ここの会頭をしている。あんたは?」

「シュウです。」


この世界で名字は特権階級の人間だけです。


「よし、シュウ。着いてきな。」


彼女の後に付いていくとその辺の建物よりも大きい建物に辿り着いた。


「ここで待ってな。後で案内人を寄越す。」

「わかりました。」


30分ほど待つと白いローブを着ている神官のような姿の人に案内され議場に連れた。


「こいつが、昨日流れ着いたシュウだ。うちのもん達からは是非とも町に置いてほしいと言われている。」

「お前さんのところのか?」

「ああ。中々丁寧な仕事ぶりで感心したそうだ。」

「ほぅ…。若いのに大したものだ」


若い?

これでも五十路は過ぎているのですが…。


「お前さんのところは余所者を嫌っていなかったか?」

「ふんっ!人の食っているものにケチをつけるからだ。」

「まぁまぁ。こちらとしては文句はない。」

「うちもだ。」

「そうだの。神官さんや、この場合はどうするかの?」

「罪人でなければ、構わないでしょう。幸い仕事は溢れておりますし。」

「おう。冒険者ギルドは何時でも歓迎だぜ。」

「それは、罪人かどうか判断してからでしょう。神官長、頼みます。」

「はい。では、シュウ殿。この玉に手を乗せてください。はい、結構。では、私の質問に正直に答えてください。」

「わかりました。」

「貴方は罪無き人を殺めたことがありますか?」

「いいえ。」

「貴方は他人の財産を奪ったことがありますか?」

「いいえ。」

「貴方は誰かの奴隷でありましたか?」

「いいえ。」

「基本三法はいいようです。では、最後に貴方はこの国に対し害する意思はありますか?」

「いいえ。」

「結構です。楽にしてください。」


手を離して元の位置まで下がった。


「問題ありませんでした。神殿はシュウ殿の入町に問題がないことを証明します。」

「良かったな、兄ちゃん。俺は冒険者ギルドのボゥだ。仕事が欲しいときは俺のところに着な。」

「私は商人組合長のテンです。ギルドを通じて依頼を受けてもらうかもしれません。」

「職人組合のソー。何かあったときは頼む。」

「町人組合のチョウです。町人組合からも依頼が出ますのでその時はよろしくお願いします。」

「大神殿より出向しております、ビアンテです。こちらの神殿の長をしております」

「改めてだが、漁港組合会頭のレベッカだ。よろしく頼む。」

「おう、早速だが、これが終わったら冒険者ギルドに着てくれ。」

「ちょっと待て。こちらから昨日してもらった仕事の報酬を出したい。それが済んでからにしてくれ。」


会議が終わるまで別の部屋で待っているとレベッカがやって来ました。


「待たせたな。早速だが昨日作ってもらった網だが、どこで作り方を習った?」

「作り方ですか?近所の漁師からですが…。」

「…そうか。うちの漁師の網は比較的目が粗い。その為、外海まで出る必要があるが、作ってもらった網ならもっと近場で量が出来そうだ。ギルドには他にも仕事があるかもしれないが、良ければ優先してくれると助かる。あと、これが報酬だ。」


銀貨と呼べばいいか、銀色の貨幣を1枚もらった。


「では、また会おう。」


レベッカが去るとボゥが入れ違いに入ってきた。


「よし、俺に付いてこい。」


ギルドは神殿から少しあるいたところにあった。

入る前に質の悪い窓ガラスを見て先程若いと言われた意味がわかった。


「どうした?」

「いえ、何でもありません。」


私、若返ってます。


「ようこそ、ペルのギルドへ。普段俺は奥にいるから仕事は受付で受けてくれ。」

「わかりました。」

「仕事のランクはだいたいFからAランクに別れていて、仕事をこなしてもらえば自然とランクは上がるようになっている。まぁ、こちらからの信頼の度合いと思ってくれ。荒事の仕事はEからで、危険な分報酬はいいものもある。Fは町の中の仕事で安全だが、報酬はその分安めだ。最初のうちはFで資金を貯めてから装備を調えてから受けることを勧める。じゃ、後は受付に聞いてくれ。」

「ありがとうございました。」

「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。」


ゲームの決まり文句のような挨拶から冒険者カードを発効してもらった。

これをもっていれば、他の町に行ったときの身分証明として使えるそうだ。


「最初の仕事はどうされますか?」

「Fランクのものを。」

「でしたら!あの掲示板から好きなものを御選びください!」


どうしたのだろう?


と、振り返るとFランクの掲示板には溢れんばかりの依頼票が張り出されていた。

内容はどれも町の便利屋さんが行うようなものばかりだ。


「これは、やりがいがありそうですね。」


簡単な仕事はやはり報酬が安い。

その中でも時間と手間がかかっても安いものもある。


「では、これを。」

「薬屋さんのお使いですね。では頑張ってください。」


まだ、漁港組合からの依頼が来ていなかったので町を覚えるのに丁度良さそうな仕事を受けた。

この仕事は薬屋から毎日時間指定されているものだ。


「すいません。ギルドから来ました。」

「ほんとですかー?ありがとうございますー。」


薬箱を背負っていた店主から仕事の説明を受けて注文が書かれた家々を巡る。

意外と家の並びが分かりやすくなっているので、そこまで迷うことはなく済むことが出来た。


「ありがとうございましたー。もしよかったら、明日もお願いしますねー。」


配達の際に預かった代金と空瓶や貝殻を渡し、報酬を得た。

これで銅貨1枚の仕事だ。

おそらく、円で言えば千円くらいの相場だろう。


「まだ、日は高い。少なくても今日の宿代は稼ぎたいな。」


そう思って町を奔走した。

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