第9話 昏倒

 アイラは私の作ったタガネで壁の一部をくり抜いて、そこに畑を作るらしい。

なんか、最初に頭を向けていた方向に作ってるんだけど、水やりの時に水が染み出してきたりはしないんだろうか?

ちょっと不安。


「結局、何から試してみることにしたの?」

「葉物野菜がいいかと思ってるんだけど……」


 言い淀むってことは、育てるものを決めきれてないんだろう。

葉物で上げたのは、ルッコラに小松菜。それからほうれん草の三つだっけ。

この中で断然食べやすいのは小松菜で、次点がルッコラ。自分で候補に上げておいてなんだけど、ほうれん草は不向きかもしれない。


「……最悪の場合に、生でも食べられるルッコラか小松菜がいいかな」

「ほうれん草じゃなく?」

「ほうれん草も生で食べれる種類はあるけど、そうじゃないやつはエグみがきついから、茹でこぼさないと食べ辛いんだよね」

「そっか。んじゃ、小松菜にしてみるわ」


 アイラは一つ頷くと、ひざ掛けから抜け出して壁に穴を掘り始める。


「さすがに、タガネじゃ掘るのは厳しい……」


 そう言って眉尻を下げる彼女には、グールグルのポンっと、新しく小さなシャベルを作って進呈。園芸に、シャベルは必要だよね。


「ちなみに、種を一つ作ると体力っていうのが10づつ減るみたい。あたし、もう残りが5しかないわ」


 作業をしながらアイラがぼやく。体力の最大値は確か百だったはずだから、一つに付き10減るというのは随分と大きい。

……私も確認してみよう。

”プロフィール”をイメージすると同時に、確認したい項目だけが頭に浮かぶ。

魔力 100/100

体力  5/100


「うわ、私もあと5しかない! 魔力は減ってないのに!?」


 なんで!?

と、目を剥く私に、アイラが苦笑しながら説明を始める。


「魔力の消費は基本的に1で、魔法のレベルが上がると、効果範囲や威力を上乗せ出来るようになって消費量が増えるみたい。減ってないのは、多分、使った量よりも自然回復する量の方が多いから?」


 なるほど。

魔法に関しては、ライトを一回とエリアライトを二回使ってる。どっちもレベル1だから魔力は三しか使ってないってことか。


 スキルの方はどうなのかと思ったら、こっちは使ったスキルによって違うらしい。

基本的にはスキルレベルと消費体力は一緒。ただし、スキル内で出来ること――錬金術だったら融合かな?――はレベルが上っても一のままだったりすることもあるんだとか。ちょっと複雑だから、覚えるのがめんどうだね。

むしろ、場合によっては素材のランクも消費スキルポイントに関わってくることがあるそうだ。

えーっと、”検索”先生!

さっきまでの合成に使った体力はおいくつ!?


”今までの、合成、に、使った、体力は、全部で六十です”


 即、脳内に流れるのは”検索”先生のアナウンス。

思考放棄にもきちんと答えてくれて、ありがとうございます。


”いいえ、どういたしまして”


 ……なんか、”検索”先生って、プラホの音声応答システムさんに似てますね。


”良く、分かりません”


 ”検索”さんは――いや、もういいや。

とりあえず、今までに使った体力は60。融合で作った数が六個だから、一回あたりの消費は10かな。

って、あれ……?

消費した魔力や体力って、何をすれば回復するんだろ?


”魔力や体力は、消耗する行為を行わなければ一時間に5%。眠ると最大魔力の一割が回復します”


 自然回復量が勝ってるから、魔力が減っていないというアイラの推測は当たっていたみたい。


「そう言えばアイラ。体力とかって、0になったら――!?」


 どうなるのか調べた?

と、訊ねようと振り返って、ヒュウっと息を呑む。アイラは、自らが掘った穴により掛かるようにして、グッタリとしていた。

ついさっきまで元気に喋ってたのに、一体どうして……!?

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