第8話 スキルチャレンジ

 居心地が良くなったところで、アイラは野菜の”検索”をしつつ”ファーム”スキルに挑戦し始める。種を作ってみるというから、チャック付きの小袋を渡しておく。

私は”錬金術”にチャレンジかな?

って、材料……


 せっかくぬくぬく出来る状態になったけど、仕方がない。

アイラにもちょっぴり出入り口の近くに移動してもらって、ガシガシとおかずの入っていた方の飯盒で穴の端を削り始める。

取り分けるのに使ったチタンの方だと、形状的に削るのに使いづらかったのでアルミの飯盒を空にしてシャベルの代わりにする方針です。


 ちなみにこの出入り口、私が出るのには小さいのだ。なので、掘って広げないと立ち上がることが出来ない空間に閉じこめられる羽目になる。

それだと食料を探しに行くことも、おトイレに行くことも出来ないので、錬金術スキルの実験と二兎を追おうという欲張り作戦を決行するつもり。

ただ、問題は掘った土を入れる場所がないってことなんだけど……あ、データストレージってのを試せばいいのか。

早速”データストレージ”を使ってみる。


「うわ……」

「なにそれ?」

「データストレージさん」

「……こんなんなるんだ」


 こんな・・・というのは、多分、私の横に広がるポッカリと暗い穴のことだろう。まさか、自分の横にこんな形で穴が開くとは思わなかったから、私もビックリだ。

アイラに背中をつつかれて、穴の上でおっかなびっくり一削り。

ザリッとも、ガリッとも聞こえる音を立てて削られた土が穴に落ちると同時に消え失せる。そんでもって、なにかが私の中に溜まる・・・感覚。


「なんか、溜まった気がする……」

「溜まった感じ……?」


 慣れない感覚なのもあって、正直ちょっと気持ち悪い。アイラが良く分からないと言いたげな顔になってるけど、うまい説明が思いつかず、適当に何かを入れて見るように伝える。


「じゃ、作った種を一つ入れてみる」


 そう言って即座に試すあたり、思っていた以上に行動的だ。


「大きさや形を変えることも出来るみたいね」


 種を一つ入れてみた後、何個か追加してからアイラが呟く。

私と同じ大きさで出現した穴は、アイラの小さな手の平と同じ位の大きさに変わっている。どうやら中空に出現させることも出来るらしい。

アイラが何度か出したり入れたりしているのを見て、私も真似をする。

これはいい。

何がいいかって、削る場所の直ぐ側に出せば細かい土が飛んでこないのが素敵だ。

出入り口からは多少なりとも空気の出入りがあって、上の方を削ると目に入りそうだったんだよね。


 しばらくの間、ゴリゴリと無心に出入り口を削っていく。

角があるうちは削りやすいけど、穴掘り専用の道具を使っているわけでもないから段々と辛くなってくる。

まあ、辛くなってきたときがやめ時だよね。

アイラから、かんざし用の箸を一本借りて、データストレージの中から削り落としたばかりの土をアルミの飯盒に適当に詰め込む。

レベル1の”錬金術”で出来るのは『融合』と『合成』の二種類だ。

『合成』って、どっちかというと洗剤を連想してしまう。

今回は『融合』かな。

『融合』だと、出来上がりの形も決められるらしいし……トンカチっぽい形で作ってみることに決めて飯盒に箸を突っ込んでグルグルし始める。中身を見なければ、インスタントラーメンでも作っているみたいだけど、残念なことに入っているのは土塊だけだ。美味しいものは出来ないというのが、ちょっぴり残念。


「……塩ラーメン食べたい」


 妙な連想をしたら、お腹が空いた。

お弁当も、後のことを考えて半分以上残したから当然かも知れないけど、タイミングが悪かったらしい。ぐるぐるかき混ぜていた手の中から抵抗が消える。

そして、ポワポワとした光が漏れ出してきて飯盒の中から浮かび上がり、空中でパチンと音を立てて弾け、中に入っていた物が落ちてけたたましい音を立てて砕ける。

砕けたのは、どう見てもラーメン用の丼だ。


「なんで、丼……」

「さあ……?」


 いつの間にか私の作業を見ていたアイラが呟く。反射的にそっと目を逸らして、空っとボケてみる。


「レイちゃん、塩ラーメンって呟いてなかった?」

「――呟きました」


 誤魔化せなかった。


「まあ、スキルがちゃんと使えるのは分かったからいいと思うけど……。怪我をしないようにだけ、気をつけてね」


 アホな失敗をしたのに、アイラが優しい……

余計なことを考えると失敗することを肝に銘じて、次は真面目に作業をしよう。

また、落っこちて割れたら困るから、飯盒に入るサイズを想像しながらぐーるぐる。今度は飯盒の中で光が弾けて、青みの濃い水色のトンカチが現れた。

中に入り切らないと、浮かんできちゃうのかな?

出来上がったトンカチに、爪を立てて傷がついたりしないかを確認してみる。


――うん、大丈夫そうかな。


 これとセットで使うように、杭を作って穴を広げる作業を再開してみる。


「さっきよりは楽、かな?」

「そうやって使うんだったら、タガネの方がいいと思うわよ」

「どんな形?」


 アイラが図解付きで説明してくれたのは、刃の部分が大きくなった平刀っぽい代物。平刀って、アレだ。彫刻刀セットに入ってる、平たいやつね。

柄のお尻部分も大きくなってるのは、トンカチで叩きやすいようにかな?

細かく指定してくるのが不思議で訊ねてみたら、どうやら本人も同じものが欲しかったらしい。もちろん、喜んで作りましたとも!

アイラのおねだりなら、大概のものは叶えちゃう。



◇錬金術の成果◇

割れた青土製の丼 一個

青土製のタガネ  二個

青土製のトンカチ 二個

青土製の杭    一個

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