第5話 アイラの荷物

 アイラが少し落ち着いたところで、お腹も空いたことだしお食事タイムだ。

私のお弁当箱は二つ。片方は、早起きして炊いた白いご飯がみっしりと詰まっている。お弁当箱として持ってきた飯盒は、空になったらご飯を炊くためにも使えるし、料理にも使うことが出来るステンレス製の折りたたみハンドル付き。

四合炊けるから、半分食べたら残りは夕飯用――の予定だったんだけど、もう少し残しておこう。アイラの夕飯分も必要だものね。

スプーンでセットになっていた小さい方の飯盒に、今から食べる分の御飯だけ移動させてから蓋を締め直す。

この、セットになってる小さな方の飯盒も置いてこなくて良かった。

大きい方しか使う予定がなかったから置いてこようかとも思ったんだけど、大きい方におけばかさばらないからと持ってきて正解。


 さてさて、おかずも取り分ける。

こっちは、ギリギリ二合までは炊けるタイプのアルミ製の飯盒。

そこに朝早く起きて作ったおかずを、ぎっちりと詰め込んでる。卵焼きに、唐揚げは鉄板だよね。今日は甘く味付けしただし巻き卵と、生姜とにんにくを混ぜた醤油に漬け込んだ唐揚げ。ブロッコリーとミニトマトも追加したお陰で、彩りもきれいです。


「美味しそうだけど、……すごい量ね」


 自分のお弁当を開けながら、アイラは私のお弁当を興味津々に覗き込む。

一般的な量でないのは理解してるから、すごい量と言われるのも納得です。


「ふっふっふ。早起きして作ったんだ。力作でしょ」

「自分で作ったの? すご……!」


 彼女のお弁当は、使い捨てにできる紙のお弁当箱に詰められたロールサンド。

切断面が色とりどりで、美味しそう。

アイラの言葉から察するに、自分で作ったわけじゃなさそうだからお母さんが作ったんだろう。お母さんの作ったお弁当とか、ちょっと羨ましい。

生母の用意してくれた御飯って、基本的にシリアル系だったからなぁ……


「私の分の残りは、二人で夜に食べようね」


 頑張って笑顔を作り、アイラにそう言うと小さくお礼の言葉が返ってきた。

ちょっと元気がないから、きっと彼女も家族のことを思い出しちゃったんだろう。


 気を取り直して、取り分けたお弁当に取り掛かる。

まずは、お弁当の永遠のアイドル。

愛しの唐揚げさん!

お弁当箱に詰めるとしんなりしちゃうけど、それでも唐揚げ、美味しい。

今回は揚げ具合もうまくいったみたいで、柔らかジューシーに仕上がってる。

唐揚げをもぐもぐしつつ、白米をパクリ。

口の中で唐揚げの塩気とお米の甘さが渾然一体となって、最高です……

ちなみに、卵焼きと唐揚げだけだと彩りが足りないからサラダ菜を下に敷いて、

唐揚げの脂に飽きてきた時の休憩代わりに食べるのがいい感じ。

本当はポテトサラダも入れたかったんだよね。

夏場だし痛みやすいと思って断念したけど、入れておけばよかった。


「ところでさ」

「うん」

「私の荷物が変だって言ってたけど、アイラのも割と変だと思う」

「う……」


 私の指摘にアイラは目を逸らす。

どうやら、自覚はあったらしい。

お菓子はクッキーやポテチ、それから飴玉と普通だったんだけど、それ以外にも妙なものが入ってたんだよね。


「お財布サイズの裁縫ツールは、便利そうだし利用方法の想像はつくんだけど、なんで工具なんか持ってきてるの?」

「暇つぶしになるかなーと」

「工具で?」


 本気で訳がわからない。食べ終わった後にも首を傾げていたら、実際に『暇つぶし』をやって見せてくれることになった。


「コレがマルカンで――」


 説明しつつ、持ってきた材料を工具に挟んでクイックイ。

アイラの手が動くのを眺めているうちに、可愛らしいストラップが一つ出来上がる。

他にもピアスやイアリング、かんざしなんかも作ってるらしい。


「その箸も材料なんだ……」

「これは、こうやって穴を開けて――」


 こっちも、へーほーと呟いているうちに出来上がる。

箸にしては短いと思っていたら、お尻部分を切ってからヤスリで磨いたらしい。

かんざしって、長すぎても使いづらいのか。

知らなかった。

クルクルとかんざし(加工前)に髪を巻き付けて、纏めて見せてくれるのを見て思わず拍手。私、かんざしって纏めた後に挿す、ただの飾りだと思ってました。

これで髪を云う方法を考えた人、天才だったんじゃない?

私はショートだし、もう伸ばすつもりはないので、今更使い方を知っても意味はないけど――三年前だったら、きっとコレ、使ってみたかったんじゃないかと思う。

和装、好きなんだよね。道着を着る時にでも、コレをやってたら、きっと可愛い。

アイラが、どんな風に飾りをつけるのか説明してくれるのを聞きながら、二年前まではポニーテールにしてた髪を指に巻き付けた。


――もう、伸ばさないけどね。危険で、危ないから。


 次があったら、きっと耐えらんないし。

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