第3話 プラホが消えた
プラホに触れた瞬間、目が覚める前に聞こえていた、男のものとも女のものともわからない声が頭に響く。
”プラホより、スキル『検索』を付与します”
”プラホより、スキル『念話』を付与します”
”プラホより、スキル『地図』を付与します”
”プラホより、スキル『記録』を付与します”
”プラホより、スキル『時間感覚』を付与します”
”プラホより、スキル『プライバシー』を付与します”
”プラホより、スキル『データストレージ』を付与します”
”プラホアプリ『みんなのアトリエ』より、スキル『錬金術』を付与します”
”プラホより、光魔法を付与します”
”プラホより、光魔法を検出。重複したため光魔法のレベルが上がりました”
訳が分からないことに、触れたはずのプラホの感触が消え失せて、頭の中になにかの情報がなだれ込んでくる。
え?
スキル?
魔法?
どういうこと!?
「ひゃ!」
「アイラ!?」
突然の情報の奔流に混乱する私の耳に、アイラの小さな悲鳴が聞こえて、意識がそっちに持っていかれた。
「う、へ、平気」
ちょっと言葉に詰まっているけど、ほぼ普段通りの口調で、私の方も少し頭が冷えた気がする。
「今、あたし、プラホを出そうとしてたんだけど――」
「うん」
「触った途端に消えちゃった」
「アイラも?」
「ってことは、レイちゃんもね」
突然、手元からプラホが消えたのは私だけじゃなかったらしい。自分の身にだけ変なことが起きてるんじゃなくって良かった……というのもアレだけど、ホッとしてしまう。だって、自分だけが妙な体験してるのって、なんか嫌。
「あたしのプラホ、消えちゃう時に変なメッセージが頭に浮かんだんだけど、レイちゃんは?」
「同じく」
「おーけーおーけー。レイちゃんもね」
「なんか、スキルとか魔法とかってやつ?」
あれって、幻聴のたぐいじゃなかったの?
……というか、そうだといいなと思いたかった。
プラホが消えるのと同時に変な声が聞こえてくるなんて、明らかにおかしい。我が身にそんな摩訶不思議なことが起こるとか、ぶっちゃけありえない――いや、AV的なことはあったから無いとは言えないか。
「なんか、ワクワクする」
嬉しそうな声が返ってくるところからすると、彼女はこの状況を楽しんでいるらしい。……楽しい、ことなのかな?
「プラホが消えた時に聞こえた内容、覚えてる?」
「スキルとかってやつ?」
「そ。確か、”検索” ”念話” ”地図” ”記録”に――なんだっけ?」
立て板に水と言うのがしっくり来るくらい、あっという間にまくしたてられた割に、アイラはずいぶんと良く覚えてる方だと思う。
「細かく覚えてないけど、魔法もあったでしょう」
細かく覚えてないのは、嘘。光魔法っていうのを覚えた上に、なんかレベルも上がってる。
「そうそう。目が覚めるときに聞こえてきた分も考えると、他にもあるはず」
「そういえば、経験がどうとかってのも聞こえなかった?」
暗闇の中でアイラが頷く気配がして、一呼吸置いてから彼女は口を開く。
「じゃあ、まずは切実に必要な明かりの魔法から試してみるわ。――『ライト』」
「わ、まぶし!!」
アイラの声と同時に、闇の中に光が生まれる。暗さに慣れた目にはその光は眩しすぎて、思わず目を押さえた。
「レイちゃん、大丈夫?」
「ん、ちょっとまって……」
やたらと眩しいと感じたけれど、ちょっと目を閉じていただけで、チカチカしたものが見えるのが収まってくる。
「あー、びっくりした」
何度か瞬くうちに目が慣れて、手の中に小さな光の玉を乗せたアイラが心配そうに見上げている姿が目に映る。
なんか、ほっこり。
手の中にある光にほのかに照らされているアイラが、なんだか神秘的。ちょっと髪の色が緑っぽく見えるのは、光の加減だろうか?
「思った以上に狭いわね」
私が見とれている間に、彼女は周囲を見回してそう口にする。言われてみると、暗い中で想像した以上に狭い。
シングルベッドよりちょっと広い程度の歪んだ楕円形の空間は、天井は膝立ちになるのも厳しい位の高さだ。壁や天井の触り心地はザラザラしていて、岩というよりも土っぽい。それでいて土にしては、青みを帯びた黒い色をしていて違和感があるかな。
……爪を立ててみると、ちょっぴり削れた。
シャベルがあれば、掘り広げるのもそれほど難しくないかも。
「……風を感じると思ったら、横穴が開いてるわ。狭いけど、出られるかも」
私が地面に爪を立てる僅かな時間で、アイラは出られそうな横穴を見つけたらしい。声の方に視線を向けると、彼女は横穴の入り口に四つん這いになって頭を突っ込んでいた。
――なんというか、小さく揺れるお尻が、ちょっぴりエロいです。
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