第2話 暗闇の中にいる

”落人の存在を確認しました。落人の受入処理をはじめます”


 ふわふわとした意識の中に、誰かの声が聞こえてくる。


”願い事を受理しました”


 ん……


”経験に基づき、スキルを付与します”


 だれ……


”主義思想に基づき、属性を付与します”


 なに……


”肉体の再構成を行います”


 いって……?


”再構成を終了いたしました”


 さい……?


”現在地に類似した地点に転送いたします”






 斜面を滑り落ちたのにも関わらず、どうやら私もアイラも大した怪我もなく無事に済んだらしい。意識が戻ってまず感じたのは、腕の中にあるぬくもりアイラから規則正しい寝息が聞こえてくることに対する安堵だった。

それはそれとして、意識がはっきりしない間、ひたすら決定事項の報告チックな言葉の羅列が聞こえてきた用が気がする。

――あれは何だったんだろう?


 それにしても寒い。

バンガローがある山の中は都内と比べれば涼しいけど、季節は夏。こんなに寒いはずがないよね?

なにか変だと思いながら、恐る恐る目を開けてみる。

――真っ暗だ。

あれ? 今、目を開けたよね?


「アイラ、アイラ?」


 何も見えないことで、不安が一気に膨れ上がる。無条件に、抱え込んでいる人形の温かいものがアイラだと思いこんでいたけど、もし、違ったら?

不意にそんな恐怖が襲いかかってきて、手の中の人物を揺すりつつ、そうであって欲しい人の名を呼ぶ。


「――ん……」


 腕の中にいた人物が身じろぎをして、寝ぼけた声を上げる。

アイラの声だ。

聞こえてきた声が、一番聞きたかった彼女の声だったことにホッとする。

安心しすぎたのか、キュウと胸が苦しくなった。


「レイちゃん、どうしたのぉ?」


「アイラで、よかったぁ……」


 ほんと、万が一違う人だったらどうしようかと……

アイラを抱きしめて気持ちを和ませる。

触れている場所から感じる人肌があったかくて、気持ちいい。

それに、なんだかちょっぴり甘いいい匂いがして幸せ。


「ね、レイちゃん。一旦離れよっか」


 アイラの体温と匂いを堪能していると、しばらくして悲しい要望が提出された。


「……もうちょっとだけ」


 時間延長を申し出ると、苦笑する気配。


「レイちゃんは、甘えん坊さんねぇ?」


「ふふ。くすぐったいよ、アイラ」


 そろりと彼女の指先が頬を撫でる。ゆっくりとした動きのせいで、ひどくくすぐったい。その手を握って頬を擦り寄せると、なんだか元気が湧いてきた。

――でも、うん……確かに、甘えん坊かも。

私、今、アイラに甘やかしてもらって、やっと頭が回り始めたみたい。


「でも、真っ暗だとレイちゃんの顔が見えないから、明かりが欲しいわね」


「そうだね。確か、リュックにでっかい蛍光灯があったはず」


 アイラを叩き起こす前に、思いついていても良かったのに。

言われて初めて気づくだなんて、私ってば、随分とパニクってたみたいだ。

我ながら、情けないったら……

持ち運べる蛍光灯みたいなやつを、林間学校の準備をしていた時に用意していたんだけど、今の今までその存在を欠片も思い出さなかった。

むしろ、背負ったままのかさばるリュックの存在すら忘れてるって、どんだけ?


「あ、荷物ひっくり返す前に、周りにぶつかるものがないか確認しようね」


 アイラの冷静さに、びっくり。


「今、まさになんの確認もなしに起き上がろうとしてた」


「こういう時は、落ち着いて、ゆっくり行動よ。念の為、落ちそうな場所がないかどうかも確認ね」


 言われたとおりにゆっくりと手を伸ばして、ぶつかるものがないかを確認しながらそろそろと起き上がる。

どういう訳か、私達は穴の中にいるみたい。広さは二人がなんとか横になることが出来る程度……かな?

暗闇の中、手をゆっくりと動かして確認した感じだと、天井も低くて、中腰で歩けるかどうかも怪しい雰囲気。ただ、変な横穴とか縦穴はないみたい。暗い中で物を落としたり、あまつさえ自分が落ちたりすることはなさそうだということにホッとした。

見えないことがこんなに怖いだなんて、知らなかったな……


「あたし、懐中電灯はないけどプラホでも多少は明るくなるはず……」


「そっか。プラホもあったね」


「まあ、ないよりはマシって程度よね」


「確かに」


 同じように起き上がった様子のアイラと、他愛もない会話をしながら荷物を漁る。

そんな言葉を交わすだけでも、少し気持ちが明るくなる気がした。

バンガローに荷物を置いてから出すつもりで、懐中電灯はリュックの奥の方にしまったておいたから、プラホの方が分りやすい場所に入ってる。

まずは出しやすいプラホからと思い、外ポケットの中に手を突っ込む。


「あった――」


 スマホに手が触れた瞬間、その感触が手の中から消え失せる。


”このアイテムは持ち込み禁止です。アイテムに封じられたスキルを、本体に移行します”


 ――本体って、何!?


 頭の中に響く声の示すものに疑問を感じた瞬間、頭の中に次々と情報がなだれ込んできた。

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