第8話主人公視点

(よく寝ていたな、エイル神の聖女ローザ)


(申し訳ありません、フェンリル様。

 つい寝てしまいました。

 それに私の事はローザと呼び捨てにしてください。

 フェンリル様に聖女などと言われると、恥ずかしくていたたまれません)


(なにを恥ずかしがることがある。

 ローザはエイル神が認めた聖女だ。

 堂々と構えていればいい)


(とんでもありません。

 私ごときにそのような資格はありません)


(まあ、よい。

 その話はまた改めてしよう。

 今はそれどころではない。

 魔獣と魔族が大挙してやってきたようだ。

 迎え討つので起きてくれるかな)


(申し訳ありません、申し訳ありません、申し訳ありません)


 あまりの恥ずかしさに、真っ赤になってしまいました。

 事もあろうに、フェンリル様に身体を預けて寝てしまっていました。

 恐れ多い事ですが、その毛並みの柔らかさに熟睡していました。

 だって、これほど寝心地のよいのは初めてだったのですもの。


(構わぬよ。

 俺も気持ちよかったし、いい香りがしてリラックスできた。

 また俺の背で寝るがいい)


(ありがとうございます)


 恐れ多い事ですが、痺れるような幸福を感じる事ができました。

 本当にもう一度フェンリル様に身体を預けて眠ることができたら、これほど幸福を感じられる事はないでしょう。

 心から安心して熟睡する事もできるでしょう。

 夢のような、絶対に現実にならない事だと思っていました。


 ですが、それは、夢ではなく本当の事になりました。

 その日から、魔獣と魔族を退治されたフェンリル様にクリーンをかけ、丁寧にブラッシングをして、その背に身体を預けて眠るのが日課になりました。

 穏やかな、かけがえのない日々が、ひと月過ぎた頃に、フェンリル様は不意に話しかけて来られました。

 普段のたわいもない会話ではなく、真剣な話でした。


(どうやら人間がこのダンジョンに逃げ込んできたようだ。

 先に入っていた軍隊とは合流できないで困っているようだ。

 どうする聖女ローザ)


 私はフェンリル様が何を言われているのか、全く分かりませんでした。

 そこで詳しい説明をして頂くようにお願いしたのです。

 それくらいのお願いができるくらいには、フェンリル様と仲良くなれていました。


(ああ、これは失礼した。

 エイル神から何も聞かされていなかったのだな。

 ヴェネッツェ王国は疫病で滅びかけているのだよ。

 守護契約を結んだアポロンは、疫病の神でもあるからね。

 ローザを殺そうとしてエイルの逆鱗に触れて、全ての魔法薬が効力を失ったから、疫病を抑える事ができなくなっているのだよ)


 

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