第7話主人公視点

 フェンリル様がウトウトされています。

 ブラッシングは気持ちいいのでしょう、とても眠そうです。

 私達のために戦ってくださって、とても疲れておられるのです。

 私のできる事は全てさせていただきます。

 それに、ブラッシングさせていただくのは、私も愉しく気持ちいいのです。

 輝くような白銀の毛並みを手入れさせていただけるのは、とても光栄です。


 やがてフェンリル様はスヤスヤと眠られました。

 気持ちよさそうな寝息まで立てておられます。

 私は嬉しくなってしまって、寝ているフェンリル様にブラッシングを続けました。

 優しく丁寧にブラッシングをしていると、ある事が分かりました。

 ブラッシングをする場所によって、フェンリル様がピクピクされるのです。


 後脚の付け根をブラッシングすると、足先がピクピクします。

 ただまだ完全に信頼してくださっていないのでしょう。

 お腹は下にしておられるので、触ることができません。

 でも、だからこそ、左右の後脚の付け根をブラッシングすることができます。

 それは前脚も同じでした。


 前脚の付け根、肩と脇のちかくをブラッシングすると、前脚の先がピクピクして、とても楽しくなってしまいます。

 後頭部から背中にかけてブラッシングすると、耳がピクピクします。

 ブラッシングする場所を少し左右に移動させると、片耳ずつピクピクします。

 もっと色々試してみたくなります。


 丁寧にたくさんブラッシングすると、どうしても毛が抜けます。

 ブラッシングを続けるには、その毛を取り除かなければいけません。

 でも、フェンリル様の毛を捨てたりはしません。

 抜け落ちたフェンリル様の毛は、大切にとってあります。

 フェンリル様の毛を捨てるなんて、不敬極まりない事です。


「ふわぁぁぁあああああ」


 とても気持ちよく感じてくださっているのでしょう。

 フェンリル様が大きなあくびをさせました。

 安らかな寝息を立てておられます。

 それを聞いていると、私もなんだか眠くなってきました。

 耐え難い、睡魔と言っていいくらいの眠気です。

 フェンリル様の寝息には、魔力があるのかもしれません。

 

 私は必至で睡魔に抗いました。

 フェンリル様のブラッシングを中途半端にする事などできません。

 完全にお手入れするまでは、途中で止める事など、絶対にできません。

 まして、寝てしまうなど、許されることではないのです。

 そう思っていたのに、強く心から思っていたのに耐えることができませんでした。

 途中で意識がなくなってしまったのです。

 

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