第4話王太子フェリクス視点

「殿下、ハワーデン公爵家のゼイネップ嬢の件ですが……」


 俺は父王陛下の怒りと言動が気になって、ハワーデン公爵家に密偵を送り込んだ。

 いや、以前から送り込んでいた密偵に細かな報告をさせた。

 国一番の戦力と経済力を持つワーデン公爵家には、以前から腕利きの密偵を複数潜入させてあったのだ。


「それで、父王陛下の申された意味は分かったのか?」


「はい、明らかになりました。

 顔に無残な傷を受けたゼイネップ嬢のために、ハワーデン公爵は領医に治療させたのですが、まったく効果がないそうです」


「効果がない?

 まったく効果がないというのはおかしいだろう。

 王国医であろうと領医であろうと、結局は魔法薬を使うだけだ。

 魔法薬を使って効果が出ないはずはなかろう」


「それが、ありとあらゆる魔法薬を使っても、元通りにならないどころか、傷も塞がず血も止まらなかったそうでございます。

 このままでは出血死してしまうと領医が進言し、しかたなく針と糸で傷口を縫い合わせたそうでございます。

 その時に痛み止めの魔法薬も使ったそうですが、一切痛みがなくならず、傷口を縫う痛みにゼイネップ嬢はのたうち回ったそうでございます」


 どういう事だ?!

 父王に疎まれ、王城から追放されたとはいっても、ハワーデン公爵ほどの権力者だ、こに国で手に入るすべての魔法薬を使ったはずだ。

 そのすべてが効果を現わさないなんて、普通は絶対ありえない事だ。


「なにが起こったと思う?」


 俺は参謀達に意見を求めた。

 奈落ダンジョンに聖女を探しに行くために、急ぎ準備をしている最中なので、騎士団や徒士団の幹部連中が常に俺の側にいる。

 彼らなら俺よりも色々と考えているだろう。

 俺は考える事が苦手で嫌いなのだ。


「恐らくそれが、国王陛下の申された建国王様と守護神アポロン様の契約でしょう。

 あくまでも推測ではありますが、聖女様がおられないと、この国では魔法薬が全く効果を現わさないのでしょう」


「そんな馬鹿な話があるか!

 どこの世界に、そのような不利な契約を交わす建国王がいる!」


 絶対に信じられん。

 俺が幼い頃から憧れ尊敬していた建国王陛下が、そのような不利な契約を守護神アポロン様と交わすなど、信じる事などできるモノか!


「ですが王太子殿下。

 建国王様は、多くの流民を守りながら二十数年も大陸を流浪されたと、建国伝説では語られております。

 王家の中には、毎年千人の国民を生贄にしても、神と守護契約を交わしています。

 聖女様がいなければ魔法薬が無効になるくらい、ささいな条件です。

 単に聖女様を敬うだけなのですから。

 その程度の契約も護れない王家など、神様から見れば守る価値もないのでしょう」

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