第2話主人公視点

 激烈な痛みだったのでしょう。

 ゼイネップの悲鳴が辺り一帯に広がります。

 ゼイネップは自然と顔を両手で覆っていますが、血が溢れています。

 周りの取り巻きも悲鳴をあげて逃げ惑っています。


 次の極悪令嬢に狙いを定めようとしましたが、できませんでした。

 失態を犯した二人の兵士が、慌てて剣を抜いて襲いかかってきたのです。

 私は兵士を振り払って背中を向けていたので、斬りつけられそうなことに気がつかず、気がついたのは斬られた痛みからでした。


 いえ、痛みというよりは衝撃でした。

 最初は熱い衝撃が背中に走り、その後で激烈な痛みとなりました。

 一太刀ではすみませんでした。

 二撃三撃と斬りつけられ、あまりの衝撃と痛みに倒れそうになってしまいました。


 その場は阿鼻叫喚の生き地獄となりました。

 平民や下級貴族を何度も虐め、自殺に追い込んできた極悪令嬢達も、自分達が反撃を受けた事もなければ、その場で斬り合いになった事もないようです。

 血みどろの惨劇に、情けない悲鳴をあげて逃げ出していました。


 兵士も一緒に逃げてくれればよかったのですが、彼らは逃げませんでした。

 私がエイル神の加護をけて復活するのを恐れたのでしょう。

 自分達がやったことが明らかになれば、激怒した国王陛下から厳罰を受けるのはバカでもわかる事です。


 ハワーデン公爵家がゼイネップ嬢の悪事を隠蔽しようとすれば、全ての罪を兵士に押し付けようと暗殺するはずです。

 そんな事は、長年ハワーデン公爵に仕えている兵士が誰よりも知っている事です。

 血を失う事による悪寒に襲われながら、朦朧とする意識の中で、とりとめのない事を考えているうちに、兵士に両手両足を持たれていました。


 死にかけている私を、奈落に投げ込むつもりのようです。

 抵抗したくても、全く力がでません。

 このまま死ぬことができれば、楽なのかもしれません。

 眼が覚めたら、両親のいるあの家に戻れるかもしれません。

 この世界に来てからの事が、全て悪夢だったと笑えるかもしれません。


 そな事を想いながら、奈落に投げ込もうと振り回す兵士の顔を確認しました。

 無意識にニヤリと笑ってしまいました。

 私のその笑顔が、よほど怖かったのでしょう。

 私と視線が合った両手を保持していた兵士が、足を保持していた兵に合わせることなく、手を離してしまったのです。


 足を保持していた兵士も、慌てて手を離しましたが、タイミングがずれたことで、私はクルクルと回りながら奈落の底に落ちて行きました。

 その時、今度は足を保持していた兵士とも視線が合いました。

 兵士が一生悪夢に苛まれるように、呪いの笑顔を浮かべてやりました。

 私が意識を保てたのはそこまででした。


 

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