プロローグ 大陸統一暦一二〇五年春 帝都ギルハ その2
二年前、帝都に来る際した、師との約束を思い出す。
冒険者の実質的な最上位『第一階位になったら戻っておいで』といった彼に私は、こう宣言した。
『私は特階位に──一人で
それを聞いた時に、彼が浮かべた
──ギルド会館内は混みあっていた。
けれど、私は仮にも冒険者の
そして手に持っていた布袋を
「ジゼル、これお願い」
「あ、レベッカさん。もうっ!
私の担当である長く
「ひゃ!! ……レ……レベッカさん!?」
ジゼルは
「レベッカさん……何ですか? こ、これ、は?」
「何って……見ての通り、
「…………あえて、あえてお
この子だって《
私は窓口の台に
「《
それまで
どうやら、私達のやり取りは注目されているらしい。
けど、私にとってそんなのはどうでもいい。
私は一刻も早く、これを辺境都市へ届けてほしいだけなのだ。
ジゼルが身を乗り出してきて、言葉を振り
「……レベッカさん」
「何?」
「何回、言えばっ、分かってくれるんですかっっ!
「? ソロだけど??」
少女は頭を
──この世界において、龍とは悪魔と並ぶ最強種の一つだ。
並の冒険者ではまず歯が立たず、毎年多くの
しかし、それらを
富と名声を一気に手にできるため、冒険者なら
かつての私もそうだった。
しかも……冒険者ギルドが
決して個人で挑むような生き物ではなく、国家単位で対処するような相手だ。仮に倒すことができたとすれば、大陸全土にその名が
事実、つい先日、帝国東部地域の王国国境の村々を
ここ百年以上、大規模戦争こそしていないものの、歴史的背景からいがみ合い続けている三列強があっさりと共同歩調を取る程に、上位の龍や悪魔は
……私だって単独でやり合いたくなかったけど、
「ギルドで素材の買取りは出来ないの?」
ジゼルの顔が勢いよく上がった。
「そ、そういう話をしているんじゃありませんっ。
言葉を
「一頭分あるから全部お願い」
「…………今、何て?」
「雷龍を討伐したのよ。首だけでも
聞き耳を立てていたのだろう
「なぁ、今……雷龍を討伐した? って言ったのか?」「私もそう聞こえた」「しかも、単独で?」「
しん、と静まりかえったギルド内で各人が目を合わせあい──
「ち、ちょっと静かにしてくださいっ! まだ口外しないでっ!! そこっ!!!
ジゼルが
──龍を討伐した冒険者。
しかも単独での討伐者となると、大陸に数多いる冒険者の中でもほんの
以前の私なら周囲の冒険者達と同じ反応を示したと思う。
……だけど、この程度では、まだまだだということを私は知っている。
これでようやく『入り口』に立てるかどうかなのだ。
片手を軽く上げ、冒険者達に注意している少女へお願い。
「騒がしくなったし、今日は帰るわね。
ジゼルが
「え? レ、レベッカさん! ちょっと待ってくださいっ!! 龍殺しだと、色々と書いてもらう書類がっ! 特階位
「まーかーせーるー」
ジゼルに
──手紙の返事、今回もすぐに来るかしら?
ジゼル
誰がどう見ても美少女なレベッカさんが長くて
私は自分の
……痛い。夢ではないようです。
目の前には
届け先は、何時も通り。『辺境都市ユキハナ』の冒険者ギルド。
裏返すといつも通り、エルミア
『開けずにきちんと届けなさいよ、
……昔の彼女を知っている身からすると、信じられないですね。
レベッカさんを追いかけて、辺境都市の冒険者ギルドから晴れて本部勤務になり、担当指名されて早一年。
最上位へとどんどん
「……ハルさんって、本当に何者なんでしょうねぇ」
私は深く深く
目の前には黒紫色の牙。やはり、夢ではありません。
おそらく、これだけで白金貨数千枚が動くでしょう。
龍素材の加工は
牙一本でそうなのに……
……その前に、主役が消えても
すると、背後から
「ジゼル君……彼女、また、とんでもない事をしたね……」
私の
「ギルド長」
この御方こそ、大陸全土に根を張る
種族はエルフで
そんなギルド長が疲れた表情で、
「彼女が帝都に出て来てから約二年になるが、まさか、この短期間で龍を討伐するまでになるとは思わなかった……彼女はまだ確か十代だろう?」
「十七歳です。冒険者になったのは十三歳ですね」
「……二年前の階位は、確か」
「帝都に来た時点では第五階位だった筈です。私が配属になった際はもう第一階位でしたけど」
「……………天才、とはいるものなのだな」
ギルド長が
──冒険者の階級は、誰しも第二十一階位から始まります。
実績を積めば少しずつ上がっていきますが、彼女のように十代でここまで上り
多くの方々は
レベッカさんは
凄い……とにかく、凄い。
ギルド長が手を
「そういえば、これは先に競売に回してしまっていいのかな?」
「あ、いえ……何時も通りです、辺境都市へ送ります」
「また……『彼』にかね?」
「ええ、あの人に、です」
ギルド長が
どういう
何度か経緯を聞き出そうとしましたが、
私も
──本当に信じられません。
あのレベッカさんが。二年前は、捨て
それも
そう、始まりは今から約二年前。
まだ、レベッカさんが第八階位だった
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