第11話

 満里奈は哲夫に手紙を出し続けた。

『愛してます。いつかお会いできる日を待っています・・・』

 哲夫は苦しんだ、井川芳子に言われた『中学校時代に好きだった子に10年振りに会った』と言う言葉は、その通りだった。ゆきちゃんには、深い愛ではなかった。むしろ満里奈の方を深く愛していた。結婚するなら満里奈だと思った。初恋の人と結婚相手は別だと思った。

 哲夫は満里奈に手紙を書いた。

『許してください。満里奈さんを愛しています・・・』

『良かった。私はずっと哲夫さんを愛してますよ。また、奈良に行きたいな、ホテルニューオータニに泊まって・・・』


 1週間後に、満里奈は奈良に来ることになった。ホテルニューオータニを予約した。

 当日二人は、近鉄奈良駅前の行基菩薩像の前で待ち合わせた。

 満里奈はニコニコ笑っていたが、哲夫はしょげていた。

「す、すいませんでした」

「あら、私は全然気にしてませんよ。私を選んでくださって、お礼が言いたいくらいですわ」

「いやあ面目ない」

「済んだことは、忘れましょう。これから二人で支え合って生きて行きましょう」

「そうだね、支え合って生きて行こう」

「その女の子とは、ちゃんと別れたの」

「いや、その、なかなか言い出しにくくて」

「それは嫌よ、一日も早く別れてちょうだい、なんなら今日私が一緒にそのお店に行きましょうか」

「それはやめてください」

「女の子と別れないと体を許しませんよ」

「今日一人で店に行って別れて来ます」


 7時に二人で店の前に行って。満里奈は外で待って哲夫だけが入って行った。

 哲夫は5分で出て来た。

「別れて来ました」

「何て言ったの」

「ゆきちゃんとは、中学校の同級生の好きだった子みたいで、恋人では無かったです。僕には心から愛する人が居ます。って言ったよ」

「よくできました」

「ちょっと遅いけどホテルニューオータニへ行って食事にしましょう」

「何かこんたんが有るみたいね」

「満里奈だってあるくせに」

「そうね、あいこね」  

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