第18話 領地と息抜き

「大丈夫か、トラウ。剣にいつものような生気が乗ってないぞ。」


こんにちは、トラウです。昨日は丸1日生産dayでした。サクラが何処かのお茶会に出る時に、この前あげたネックレスをつけていったらしく、何故かクチコミによって瞬く間に情報が広がったらしい。その結果、性能がかなり高めのアクセを僕が作れると広まったようで、、生産依頼が山のように来たのだ。

お金が入ったのはいいのだが、それなりに集中力を必要とするので、大量に作るとなると、めちゃくちゃ疲れる。そろそろ落ち着いてきたので、一時的に中止していた剣術の訓練を再開したのだが。


「大丈夫じゃないですね。最近剣を振っていなかったので、若干体力が落ちたとの、昨日までの疲れがやばいです。」


「本当なら久々の訓練だからもう少し練習させたいのだが、体や心の健康も大事だ。今日は切り上げることにしよう。」


「ありがとうございます、先生。」


「ああ。して、トラウ。ここでひとつ提案なのだが、息抜きがてらお忍びで領内の町にでも行ってみたらどうだ?お前はあまりこの屋敷からでてないみたいだし、気分転換にはちょうどいいと思うのだが。」


「確かに、いいかもしれないですね。領地の内情を知っておくのも大切ですしね。」


「うむ、一応両親には伝えてから行くんだぞ。」



♢♢♢


「領内の町なのに、来るのはかなりの久しぶりかもな。」


今、僕は帽子をしっかり被って、服もなるべく地味なものを着て、町に来た。パッと見で領主の子供だとわかる人はそうそう居ないのでは無いだろうか。強いて言うならば、仕立て屋の人なんかは、服の生地を見て判断出来るかもしれない。


「おーい、そこの坊ちゃん。これ食べてかないか?」


近くにあった屋台の方から声を掛けられた。


「それ、何ですか?」


屋台のおじさんが持っていたのは、よく分からない丸い食べ物。パッと見た感じ、たこ焼きのような見た目をしている。


「おや坊ちゃん、知らないのかい?これはこの街の名物!まん丸焼きさ。この街の周りで取れる小麦と卵、それに出汁と水を加えた生地に、色んなものが包んであるんだ。何か入ってるかは、運次第!どうだ?面白そうだろ。」


所謂ロシアンルーレット的なものなのだろうか。面白そうなので、いくつか買ってみよう。


「買います、幾らですか?」


「おっ、思い切りがいい坊ちゃんだ。1つ100エイルだよ。」


エイルというのはこの世界の通貨の単位。大体1円=1エイルだ。通貨は銭貨と呼ばれる、陶器製の硬貨を1エイルとし、それ以降は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、魔銀貨というふうになっていて、鉄貨から順に、10エイル、100エイルと、1桁ずつ大きくなっていく。ちなみに、白金貨以上の硬貨には、特殊な魔法が込められており、偽造は出来ないらしい。金貨なら偽造可能だが、同じ重さの金を払えば、わざわざ加工するまでもなく金貨が貰えるので、意味が無い。メッキなどを使うにしても、金貨以上も使える商会などだと、基本的に、枚数と重さが比例しているか確認するので、あまり意味は無い。そこまでするなら、その技術で小物や武器などを作って売った方が早い。


ちなみに僕は今、3000エイルぐらい小遣いとして渡されている。食べ物などを買うには必要十分な金額だ。


「じゃあ、5つください。」


「まいど。焼きたてを入れてやるから少し待っててくれ。」


「うん。そういえばおじさん、この辺の物価って高かったりするの?」


「なんだ、坊ちゃん。やっぱりこの街の人間じゃないのか。そうだなぁ、国全体でみると、この街の物価は高いかもしれないな。」


「へぇ、それは大丈夫なの?」


「あぁ、それが悪いってわけじゃない。ここら辺の賃金は、ほかのところと比べて高いんだ。領主様がいい政治をしてくれているからな。税金が高いわけじゃないし、発展しているからな。一人一人が待つお金が多い。だから物価が高くなっているんだ。」


この領地は、地球でいうところの、先進国のような立場なのかもしれない。


「そうなんだね、よかったよ。」


「ん?何か言ったか?」


「いや、何でもないよ。」


「そうか、まあいいか。ほらよ、まん丸焼きできたぞ。六個入ってる。一個はおまけだ。」


「ありがとう、おじさん。またこの街に来た時は買いに来るね。」


「おう、約束だぞ?」


「もちろん。じゃあおじさん元気でねー。」


♢♢♢


それから、屋敷に帰るまでに、二個まん丸焼きを食べた。生地はカリカリで、出汁の味がしておいしかった。中に入っていたのは、一つ目は鶏肉、二つ目ショウガ焼きだった。普通においしい。



それから、屋敷につきまず見つけたのは、訓練場で剣を振り続ける先生だった。


「先生、ただいま帰りました。」


「あぁ、トラウ帰ってきたのか。どうだった、久々の町は。」


「面白かったですよ、あ、これ一個お土産です。」


そう言って、まん丸焼きを一個差し出す。


「なんだこれは、食べ物っぽいが。」


「まん丸焼きです。中に何かしらが入っていて、それは食べてからのお楽しみです。」


「ほぉ、面白い。じゃあいただこうか。」


そう言って、先生は一口でまん丸焼きを食べた。


「ん?うむ、うまい。中に入っているのはチーズか?香ばしい生地と非常に相性がいい。」


そんな風にしっかりと食レポをしてくれた。


「じゃあ、母上と父上にも渡してきますね。」


結果から言うと、父上のまん丸焼きははずれだった。唐辛子の粉がまとめて入れられていた。辛い物好きならまだしも、父上は辛い物が苦手らしく、苦しんだ挙句、魔法で大量の水を作り、それを飲み干すことで耐えていた。


僕が叱られたのは、理不尽だと思う。




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