第8話
「何だ?」
「私の下着とか洋服が入っていた箪笥は……」
「桐の箪笥か? ずいぶんと年期が入っていたな。それが、どうかしたのか?」
「やっぱり……」
「売ったが、何か問題でもあったのか?」
「いえ……」
「とりあえず、仕事の内容は以上となる。何か疑問点があったなら俺か櫟原に聞けばいい。分かったな?」
そっか……。
お母さんの唯一の想いでの品だったのに……。
「――! ど、どうした? 気分でも悪くなったのか?」
「え?」
「宮内さん、どうかしましたか?」
二人とも、私を見て慌てている。
何があったのかと思っていると――、
「これでも使え」
短い言葉と共に、高槻総司という男性が差し出してきたのは青い水色のハンカチ。
金色の刺繍で、イニシャルが刻まれている事から高そうなのは一目で分かった。
どうして、差し出してきたんか分からない私は、どう対処していいのか迷ってしまっていたけれど、彼が溜息を共に私の頬にハンカチを当てて来たことで初めて理解してしまう。
「わ、私……」
「何か嫌な事があったら言え。これから共同生活を一つ屋根の下で行っていくんだ。一応は雇用主と従業員という関係だが、多少のコミュニケーションは必要だからな」
「じつは、私の服が入っていたのはお母さんの形見の箪笥で……」
「高槻様……」
「そうか」
私の言葉に彼は短く呟くと私の腕を掴んで立ち上がる。
「櫟原、すぐに車の用意を」
「分かりました」
それだけのやりとりで櫟原さんは家から出ていく。
たぶん車を取りにいったと思う。
「まったく――、大事な物なら大事な物だと最初から伝えておけばいいものを」
彼は、私の腕を掴みながら歩きながら小さく呟く。
でも、その言葉は私にもシッカリと届いていた。
それから30分ほど車で移動した質屋で、無事に形見の箪笥を再度手に入れることに成功したあと、箪笥は業者の人が車で運んでくれることになった。
「――さて……」
店から出た時には、陽はすっかりと落ちていて夜と帳が近づいてきていた。
「時刻は19時か……。これから食事を作るのもアレか」
「はい。それよりも家には家財道具が殆どありません。近くの22時まで営業している店まで行き購入後に外食をされた方がいいかも知れません」
「そうだな」
「莉緒も、それでいいか?」
彼は、そう私に語り掛けてくるけど……。
私は頭を下げる。
「ありがとうございます。お母さんの形見を……」
「……気にするな。誰でも大切なモノはあるからな」
ぶっきらぼうな言葉を使っているのに、なんだか少し柔らかい口調に聞こえてしまうのは気のせいなのかな?
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