31 悪女
ゆきさんの気遣いに、ダルい体を奮い立たせた
ほかほかの湯気がでて、カニの旨味がたっぷり詰まった雑炊なんだろうが、その臭いが鼻についてしまう
けれどゆきさんの気持ちを無下にしないように、無理やりご飯を掬って口にねじ込む
素早く飲み込むが気持ち悪くて、二口目を食べれる気分じゃなかった
ゆきさんは店屋物で頼んだカツ丼の卵とじをおいしそうに頬張っていた
私はレンゲを置いて、会話で気を紛らわすことにした
「昨日のこと、覚えてないんですけど、ご迷惑おかけしてすみません」
実際私は由美さんの席に着いてシャンパン飲んだ後、記憶がない
「べふに」
別にといったゆきさんはもぐもぐ美味しそうにカツ丼を食べている
「なんか、私やらかしてしまいましたよね…?」
「由美には言っといたから
多分辞めるんじゃないかな?」
え…?
お茶を飲みながら、さらりと言った
辞める…?
言っといた?
どういうことだろう
さっぱりわからなくて、言葉を探しあぐねていると、ゆきさんが続けた
「…昨日のあの子の態度、見ててムカついたから仕事終わった後、話したの」
ゆきさんの話によると、私はシャンパンを飲んだ後、更衣室で倒れてたらしい
それを見つけたゆきさんが介抱してくれたのだが、由美さんの席を遠目で見ていたらしく、接客について由美さんに話したらしい
が、由美さんは激昂し、辞めると出て行ったと
「何を話したんですか…?」
「色々だけど…接客のやり方が気に入らなかっただけ
それに…」
ゆきさんは真っ正面を向いた
「頑張ってるあなたをいじめる人は、嫌だから」
ゆきさんの、そのセリフには、私利私欲の感情は全く感じられなかった
相手を想う、その気持ちだけ
打算ばかりで、自分の利益や欲望のみで、嘘ばかり吐いてる私
ゆきさん、私はあなたを蹴落とすことばかり考えてきた
なのに…
あなたはなんで私にそこまで出来るの…?
こんな酔った人をわざわざ自宅まで連れて来て、介抱してくれて…挙げ句ご飯まで…
私の心が狭いだけなのかな?
それとも今までの人たちが冷たかっただけ?
ゆきさんの真意がわからなくなり、頭がぐるぐるしだした
「…頭痛い…」
「大丈夫?寝てな、ご飯は食べたい時レンちんするから」
雑炊に蓋をして、頭を抱えた私を心配そうに覗き込んだ
再び布団に横になった私はゆきさんを見つめながら、思ったことを素直に言ってみた
「…なんで、ここまで優しくしてくれるんですか…?」
カツ丼を食べ終わったらしいゆきさんはお茶で飲み下しながら、真ん丸い瞳を私に向けた
「優しくしてるつもりはないけど…困った時はお互い様だよ」
特別なことではない
当たり前のことなんだ
助け合う…
そんな単純な感情を、私はいつの間にか、忘れてしまっていた
足の引っ張り合いで利益を生もうと躍起になっていた
お金を稼ぐために働いてるのに、自分本位で何が悪いの?なんて意気がってた
なんでよっちゃんは私の言うこと聞いてくれないの?
なんでお客さんが私の思い通りにならないの?
そんな自分本位の感情ばかりが募っていってた
そもそもお客さんありきの仕事なのに
私より2つしか違わないゆきさんは、考え方やメンタル面で、実年齢よりとても大人に見えた
過去に色々経験を積んできたんだろうな
それがオーラってやつなんだろう
愛人の人がちらっと言ってたゆきさんの過去…
多くを語らないし、わざわざ聞けないけど…今日ゆきさんの自宅に来てみて、なんとなく…苦労しているのを感じた
だからこそ、掴み取れたナンバーワン…なのかな…?
私は、ゆきさんに比べたら、恵まれて育ってきたのかもしれない
貧乏でバカでブスだけど、そもそも上を見たらキリがない
私は高望みするばかりで、ゆきさんみたいに実力が伴ってない
だからゆきさんを越えられないのだろう
でも…
「ゆきさん、私、あなたのことが羨ましいし、憧れるし、僻むくらい大嫌いです
けど
大好きです
だから、負けません
いつか、近いうちに必ずあなたを抜かしてみせます」
憎しみ合うんじゃなくて、助け合う
ゆきさんと肩を並べて競いたい
お互い切磋琢磨するくらいのレベルで
「お互い頑張ろ」
笑ってくれた
大嫌いだけど大好きな人が
彼女は敵に塩を送れる人なんだな
悔しいけど、私よりランクもメンタルも上だ
だからこそ、目標であり、負けたくないんだ
そんな闘志を燃やし出したこの時の私は、これから起こる出来事なんてこれっぽっちも想像してなかった
太ももの隙間から後ろが見えないんだがw 菜園すず @sciencezu
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