30 悪女

負けたくない…



けどもうお酒は限界…



けど…!



シャンパンを持ちながら、謎のプライドでそんな葛藤を繰り返す


バカにされてきた



もう、そんな思いは嫌なんだ



麻衣に変わった今、もう昔の私は私じゃない


今の私は、誰からも好かれて愛されて大切にされているみんなの人気者、麻衣なんだ



こんな年下の、顔だけしか取り柄のないヤンキー女なんかに、バカにされるなんて真っ平ごめんだ



私は変わった



もう昔の私じゃない!


シャンパンを持つ手に力を込めてボトルに口を着けると、一気にあおる



ピーチの甘い香りと炭酸が鼻に抜けていく



甘い…



粒々の泡が喉にツルツル入っていく



飲みやすく出来てるな…












あれ…?


ここは…?


気付いたら私は、ベッドにいた



が、様子がおかしい…


見慣れない洋服や家具



白い壁に木目の天井



明らかに自分の部屋ではなかった


上体を起こすと、六畳くらいの小さな部屋


辺りには誰もいない


「…あったま…いってぇ…」



急に上体を起こしたせいか、頭がガンガン響いてきた



ってか私昨日お酒飲み過ぎたんだっけ…

最高に後悔してまたベッドに倒れた



ぎゅっと目を閉じて、現実世界からトリップしようとした



次に目が醒めたら、頭痛も治っててもとの世界に戻れますように、と



やがて意識が遠退き、次に目が醒めたら今度はテレビの音が聞こえていた



まだガンガンに頭が痛くて、気持ち悪くて、やっとこれが二日酔いだと気付いた



「目が醒めた…?」



すると突然、人影に話し掛けられた









寝起きでぼんやりした視界に人影が近づいてくる


部屋着のようなラフな格好で、多分素顔だ


「…ゆきさん」



素っぴんでもその美貌は衰えず、でもいつもより可愛いらしい印象



目覚めたら、現実世界に戻るどころか、そこはゆきさんの部屋だった


「これ飲んだ方がいいよ」



目の前にお茶を出された



何口か起き上がって飲んだが、頭が重たくて重たくてすぐ横になった



ゆきさんの家らしいが、二日酔いの気持ち悪さと頭の痛さで、気遣うことが出来ない



私はただただ横になってすみません、とだけ呟いた


すると彼女は微笑みながら言う



「ご両親にキャバクラのお仕事のこと言ってないんでしょ?昨日かなり飲んでたから帰れないだろうと思ったし、バレちゃうの、嫌でしょ…?」


「すみません…」



何度目かの、すみませんを繰り返す






ゆきさんに醜態を晒す恥ずかしさと、気遣わせている申し訳なさで今すぐにでも消えちゃいたくなった



何やってんだ私


ってかゆきさんの両親は…?

やけに静かだけど、他にいないのかな…?



「…あの、ご両親は…?」



カチリとライターの音を鳴らしたゆきさんが言う


「うち、おかんだけしかいないから…多分彼氏とデートじゃないかな?」



おかんだけ…彼氏…



もしかして、両親は離婚したのかな…



そのままゆきさんは、タバコに火を点けながら、面倒くさそうに煙を吐き出した



色っぽい動作…



思わず見惚れてしまった



しかし、煙が充満した室内で、二日酔いの体だと気付いた



「…気持ち悪い」


「あ、ごめんね」


ゆきさんは慌てタバコを灰皿にあてがい揉み消した



普段なら気にしないのに、体調悪いとタバコの臭いも鼻につく



ピンポーン…



ゆきさんが窓を開けたところでチャイムがなった






私は一瞬、ゆきさんの愛人かと思ってびくついたが、まさか家には来ないだろと思って、耳を澄ませて様子を伺った



「ありがとうございますー」


ゆきさんが営業よりワントーン低めの声で挨拶すると、扉が閉まった



「…ご飯、食べれる…?」



背後から、扉の影にひょいと顔を出したゆきさんは、店屋物のお皿を持っている



ああ…!また気遣わせてしまった



「そんな気にしないで下さい、本当すみません…!」


私は上体を最大限に起こしながら謝った



「いや、私の昼食のついでだから」



そういうと、私の背後にあるであろう奥の部屋に消えた



ゆきさんは実家暮らしなんだろうな



お母さんと、あと彼氏?と3人で住んでるのかな…?



奥の部屋から戻ってきた彼女はテーブルの上に店屋物の器を置いていく



「カニ雑炊頼んだよ、食べれる?」



小さい鍋の蓋を開けて、レンゲを添えた

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