29 悪女
女の子たちは私と目が合うも、空気のように無視した
それでも私の口は止まらない
「言いたいことあるなら、正々堂々と言ってみろよ」
陰でコソコソやるなんて、弱虫がやることだよ
「まじウゼーんだけど、あんたのそういうチョーシ乗ってるとこが嫌なのわからないの?目障り」
「なにが…?調子乗ってるの意味がわからないけど?目障りなら、辞めたら?お店も、稼げない子がいなくなったら負担もなくなるしね」
私は嘲笑ってやった
「はー?」
「まじ何様だよ、てめー!」
一人の子が私に詰め寄ってきたとこで、キッチンの扉が開いた
「なにやってんだ」
店長が手にポカリを持って怒鳴り込んできたのだ
「お前らタバコばっか吸ってないで、仕事しろよ、客呼べ!」
タバコを吸ってた女の子たちに怒鳴り散らし、キッチンから追い払っていた
「まじうざーい」
そんなセリフを吐き捨てながら、女の子たちはキッチンからぞろぞろ出ていった
出る時に私を鋭く睨み付ける
「大丈夫だった?スポーツドリンク買ってきたから飲んで」
優しく擦り寄ってくる店長からスポーツドリンクを受け取って、何口かのんだ
うわ…
余計酔いそう!
甘ったるいそれを店長に突き返して、ありがとうと呟いた
店長はまた懲りずに私の方へにじり寄ってきた
酒で酔ってるし勘弁してくれ、と思った時キッチンの扉が開いた
「麻衣さんいますか?」
ホールに出ているボーイさん
タイミングよく入ってきたボーイさんに感謝して、張り切って声をあげる
「はい、どうしましたー?」
「あ、麻衣さん、お酒は大丈夫ですか?○番テーブルで由美さんのお客様がちょっと着けてほしいと言ってます、場内狙うチャンスですよ」
由美さんのお客様…
私は指示された席におずおずと向かった
すると、さっきの団体の女の子たちが、待ってましたと言わんばかりに、私をまじまじと見つめている
「麻衣さんです」
「いらっしゃーい」
真っ先に口を開いた、団体のリーダー格みたいな女が仕切りだす
「あみ姉、この子だよ」
由美さんがあみ姉と言った彼女は、ニヤニヤ笑うと噂はかねがね聞いております、と言った
その言葉で外野の2人が口々に喋りだした
「噂通り、別に大した女じゃないね」
「よくこんなんが、人の客盗れるよね」
そこで、リーダー格のあみ姉が2人に諭す
「どうせ枕っしょ、それなら風俗すればいいのにねぇー」
そう言いながら、私の方へ振り返り、またニヤニヤ笑った
「じゃああなたが風俗でも働けば?」
私は咄嗟に、「枕」と言われたことに腹が立って、初対面の人に楯突いた
普段なら、こんなこと無視してるのに、お酒がかなり入っているからか、気が大きくなっている
つーかそもそも枕でもして「色彼ごっこ」とかしてたの、由美さんだろうに
一緒にすんなよ
私枕なんかしてないし
お客を教育しきれない、あんたの指導不足でしょ
私は由美さんを睨んだ
なんなんだ、さっきから
言いたいことがあるなら、お客を使わないで直接言えよ、と言いそうになったところで、あみ姉と呼ばれる女が被せてきた
「あたしもう風俗で働いてるし
あんたより稼いでるから」
誇らしげに、どや顔をしている女
当たり前だろ
そもそも風俗とキャバクラは単価が違うから稼げる額だって違うんだから
それを自慢気に言われても、むしろそれでキャバより稼げなかったら、辞めた方がいいし…
私は歯向かう気にもなれず、無言で無視した
「あんたみたいな性悪に風俗は無理だけどね」
うるさい女だ
だいたい、あんたたちは私にそんなこと言うために来たの?
ねちねち私をいびるために?
性悪はどっちよ
由美さんはそんな様子を見ながら、みんなで笑っている
群れないと、なんにもできないんだね
「お酒持ってきてよ!パリ5本!!」
そこで急にあみ姉が叫んで、シャンパンが最初に2本運ばれてきた
景気のいい、コルクの抜ける音が、ポンッ、と響いた
私はボーイさんから受け取ったそれを、シャンパングラスに入れようとした
「なーんで持ってんの?」
変な音程でシャンパンを指さしながら、あみ姉が言ってきた
飲めと煽るそのシャンパンコールは、今の私には限界だ
鏡月でもうすでにきてるのに、今ここでシャンパンなんか飲めない
由美さんは私を潰す気なのか…
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