28 悪女
「お仕事を続けているうちに、不得意も得意になると思うんですよ
だから、私は向いてないかもしれないけど、お仕事は得意になってきたかな…」
男はセンターで分けたセミロングの髪をかき分けると、渋い顔をした
「はあ…今日は由美に頼まれてお前に仕返ししてやろうと思ったんだよ」
そう言われて、由美さんは真ん丸の瞳に狼狽の色を見せると、慌てて男の名前を言いながら膝を叩いていた
やはり、由美さんが男に、私にいじめられたから仕返ししてとでも言ったんだな
大体予想は合ってたか
「けどお前いじめ甲斐がないつまんねー女だな」
男が頭を掻いて膝を組むと、由美さんは怒った様子でそっぽを向いてタバコをふかしはじめた
「いらっしゃいませー!!!」
入り口の方からぞろぞろと3人の女の子たちが入ってくる
遠目でもわかるくらいの、がっつり真っ黒のラインで囲んだアイメイクに、お尻が見えそうなくらい短いデニムのショーパンを履いた子たち
途端由美さんはタバコの紫煙を一気に吐き出して、その集団に何か言いながら手をあげた
多分、彼女たち誰かの名前だろう
集団は奥の団体席っぽくなっている広い席に座ったようだ
すると由美さんは荒っぽくタバコを灰皿に押し消すと、お願いしますと張った声でボーイさんを呼んだ
慌てたように来たボーイさんに由美さんは冷たく、チェックで、と言い放った
「おい、どうしたんだよ」
男は由美さんの肩に手を置いて話したが、その手を振りほどき忌々しく言った
「使えねんだよ、もう帰って!」
そういうと仕舞に携帯をいじくりはじめた
機嫌の悪い由美さんと、必死に宥める男
フォローもなく呆然と見つめる私
結局彼は由美さんの尻に敷かれていただけなんだな
最初のすごみはハッタリだったのだ
そんなやつに無理やり鏡月を飲まされて…いや、指図したのは由美さんなんだろうな…
会計が終わると、由美さんは男を半ば無理やり帰していた
一緒に見送ろうと、立ち上がったら世界がぐるりと反転した
思わずよろめいて、壁に手を当てる
座ってたから、気付かなかったが…
まずい…
思いの他、きてる
真っ直ぐ立ってられない…体が言うこときかなくなっている…
由美さんは見送ると、直ぐその団体の方にかけていった
私は頭を振りながら壁伝いに歩く
やばいな…どうしよう…
そんな私に近づく足音
「麻衣さん大丈夫ですか?」
リズムよく歩いていた革靴が目の前で止まる
髪をオールバックにきめてる店長だ
意識は寧ろ冴え渡っているくらいなのに、頭がぐわんぐわんする
「大丈夫?歩ける…?」
優しく、耳元で囁くタメ口になった店長に煩わしさを感じて、顔を背けた
「大丈夫、水飲めば治りますから…」
ほっといて…そう言いかけて、店長が急に手首を掴んだ
「麻衣だけの体じゃないんだから、無理するなよ」
真剣に真顔で私を見つめる店長
その顔がお酒を飲んでるからか、より滑稽に見える
なにいってんだよ…
バカじゃねーの?ドラマの見すぎだわ、自分に酔いすぎ
そんな悪態を心の中で呟きながら、その手を振りほどいた
「大丈夫ですから、水飲んできます」
はっきりと語気を強めて発言した
それでも尚、店長は食い下がる
「麻衣、ここで待ってて、コンビニでスポーツドリンク買ってくるから」
ムカつく…
何様だよ、彼氏気取りかっつーの
コンビニに走りに言った店長を無視してキッチンで水を飲もうとした
私のお店は待機席でタバコが吸えないから、キッチンは女の子たちがタバコを吸うたまり場になっている
自分でもわかる程ふらふらとキッチンに入ったところで、私のことを絶対によく思ってない、なんなら嫌いだと思う女の子たちがタバコを吸っていたところだった
キッチンに入った途端、空気がガラリと変わったように、しん…となった
グラスに水を注いでいると、背後から小さな小さな声で誰かが言った
「酔ってるなら帰ればいいのに…」
クスクス…
「だよね、迷惑、仕事の邪魔!」
二言目は完全に聞こえる声音で、誰の耳にも届いた
持っていたグラスを置くと、私は振り向いた
「それ、誰の話…?」
酔ってる私は気が大きくなってるからスーパー強いぜ!
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