25 悪女
「あのパスタやさんにしよ!」
麻衣のリクエストでパスタやさんに入った
お互いパスタを食べ終え、欲張ってデザートで店員さんが歌いながらハチミツをかけてくれるハニトーをつつきながら、麻衣が口を開いた
「最近どーお?」
私はその質問を麻衣にぶつけた
「愛こそどうなの?彼氏とはどーなんよ!あ、試験は?どうだった?」
麻衣は恥ずかしそうに手で口を押さえる
「えーっ別にー彼とは順調だよー…試験はもう終わって、来月あたり結果発表だー!受かってるといーけど…」
「…愛なら受かってるよ、今まで頑張ってきたじゃん…ねぇ、彼ってどんな人?何やってんの?私も知ってる人?」
矢継ぎ早に質問をする
「いやあ、麻衣は知らない人だよ、職場の先輩かな、私のこと愛してくれて、優しくて、私がわがまま言っても文句言わないんだよ」
笑いながら応えた
「きゃーなになに!?すごい幸せそうじゃん!うらやまー!いいなあ!写メないの!?」
抑揚のないセリフをマニュアル通り繰り返す
「あっはは、写メないけど、今度プリ撮ったら見せるよ!」
「まじ!ちょー楽しみにしてる!!幸せだね!うらやましい!」
大きな声で、思い切りリアクションを取る
私は今上手に笑えているだろうか?
悟られやしないだろうか
他人の幸せを素直に喜べない私を
なれそめまで聞いてしまうと無意識に恨み言を吐いてしまいそうになって、ハニトーを詰め込んだ
「麻衣はどーなん?彼の話とか全然話してくんないから話づらかったんだよね…」
それは彼がいないからだっつーの
「いやー?相変わらず彼もいないし、浮いた話なんかないなー…紹介してよ」
最後は笑いながら冗談を言った
一瞬、ゆきさんの愛人の顔が浮かんだが、すぐに消した
「そっかー、仕事は?順調?まだ居酒屋でバイトしてるの?」
「まあね」
ぴしゃりと話を止めた
そのまま会話はなくなり、私たちは無言でハニトーをつついた
時計を見ると、8時を差していた
そろそろ出勤しなきゃ…
「麻衣には幸せになってほしいよ」
「…え?」
伝票を持とうとした私を麻衣のセリフが止めた
「偽善者だって思われてもいいんだけどね、友達っていっぱいいてもいいと思うけど、親友って数人だと思ってるの
麻衣とは小学生のころからの付き合いで、ずっと一緒にいたし、私は親友だと思ってるのね
親友って、喧嘩してもまた仲直り出来る仲だったり、何でも包み隠さず言える存在が親友って呼べると思うんだけど、私はそれが麻衣なんだ
だから、麻衣も、私には甘えてもいいんだよ
っていうか、甘えられたい
麻衣は自分の意見っていうか、自分の意志を私に言ってくれないから
親友の私としては、ちょっと寂しいよね
頼りないかもしんないけどさ、私に出来ることなら何でも言ってよ」
甘えは、自分を弱くするんだ
それにつけこんで、主導権を握り、従わせようとするやつなんかいくらでもいるんだよ
知ってるかい?
頼った後、相手がいなくなった時、裏切られた時、どんだけ立ち直るのが辛いか
そんなんなら、最初からそんな人いらない
それでも、あんたは受け止めてくれるというのか?
最終的には頼れるのは、自分自身しかいないんだよ
けど
最近、それも疲れてきた
私は幸せになれるのかな?
幸せになりたいよ
「…出よっか」
私は伝票を持って、お金を払った
「割り勘でいくら?」
麻衣がグッチの財布を開きながら聞いてきた
「私から誘ったし、いいよ!」
「えー!悪いよ、いいよ!払うって!」
「んーん、いいの。昨日お駄賃もらったしね」
「お駄賃…?」
不思議そうに首を傾げる麻衣に、私は歩きながら人が周りにいない頃合いを見計らって、言った
「私、キャバクラで働いてるからね…」
「えっ!?」
麻衣はびっくりしたようで、目を見開いて歩みを止めた
私は気にせず真っ直ぐ前を向いて、出口に向かった
「ほんとに?キャバクラで働いてるの…?」
麻衣は眉間にシワを寄せ、小声で話してくる
「そうだよ」
暖房が効いたデパートから、外に出る
火照った顔に、一気に夜の冷気が当たった
麻衣はどう思うだろう…
私がキャバで働いてることを軽蔑するだろうか…?
嫌われたくなくて
キャバやってると思われるのが恥ずかしくて
仕事に自信が持てなかった
なんでキャバクラなんかで働いてるの?
人に言えないような仕事やってて、両親は知ってるの?
最底辺の奴しか出来ない仕事だよね
酒のんで金稼いで、楽な仕事でいいね
キャバクラにくる、心ない人たちの言葉
バカにされるのが嫌だったから
でも、あんたが私の親友っていうなら…
麻衣だけには、私の内側の部分を曝け出すよ
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