23 悪女

「いや、ゆきが話題に出すからどんな子か気になってたんだ」


え…?



「まさか君だったとは、奇遇だな…」



「…ゆきさんのお知り合いですか…?」



「愛人てやつ、かな?」


そこで、はははっ、となにがおかしいのか笑いだした



なんと相手はあっさりと関係性を暴露したのだった



「そうですか…それでゆきさんは私のことなんて…?」



「ん?新しく入った子で最近頑張ってるんだとか、毎回のように話題にしてくるよ」






…なんだって?



毎回あの無関心な彼女が、私の話題を愛人に話しているなんて



いや



関心があるからこそ無関心を装っているのか…?



冷酷無慈悲な人形のようなゆきさんにも、人間らしい一面もあったのかと戸惑った



それよりも何よりも、私の話をしていることにびっくりした


ゆきさん、なんだかんだ、私に興味あるのかな…?



いつか、追い越されそうな存在だから?


いずれにせよ悪い気はしない



「へぇ知らなかったです、店では喋らないし…あ、仲悪いわけじゃないですけど、ゆきさんはナンバーワンだから忙しくて話せないんで…」






そもそも私はゆきさんのことをあんま知らない



生まれ持った恵まれた容姿しか、私はゆきさんを知らないんだ


全て客観的に見ただけの事実


ゆきさんがなんでナンバーワンで居続けられるのか



なんでまだ私はナンバーツーなのか



追い抜けないのは、きっとゆきさんの美貌だけのせいじゃない…


なにか…



ナンバーワンであり続けるだけの、才能があるんだ



でもその才能って何だ?



話術?色恋?



さっぱりわからない



私に足りないものは、何…?






「まあ、彼女は今まで頑張ってきたからね、えらいよ。私はそんなゆきに惹かれて、バックアップをしようと思ったわけだし…」



遠い目をする男



「最初はナンバーワンじゃなく、ゼロからスタートですからね、私もいつかゆきさんみたいになりたいです」


いつかの思いをセリフに乗せる



「いい人を見つけてバックアップしてもらうことだね、そしたら自ずといい女になっていくよ」



いい女、ってなんなんだろう



「そんな素敵な人、いないな…」



「麻衣さんの指名のお客さんはいないの?素敵な人は見つけるだけじゃなく育てるもんだよ、その為には人に尊敬される人にならなきゃ、魅力ある人にしか人はついてこないからね」






難しい話だけど、言ってることはわかる



私の魅力ってなんなんだろう



やっぱ顔かな?


でもそれは私じゃなくて、「麻衣」の魅力


じゃあ私は?


私自身の魅力って、何があるの?



「…あの、なんでゆきさんの愛人?してるんですか…?ゆきさんの…その…何に魅力を感じたんですかね…?」



最後の質問は、恥とプライドを捨てて聞いた



多分そこにナンバーワンの秘密が隠されている気がするから



すると男は笑い出した



「はっはっ、じゃあ逆に聞くよ。麻衣さんはゆきのどこに魅力を感じる?」



は?


それを聞きたくて言ってるのに…なんかバカにされてる?私



それがわかったら苦労しないし、聞かないわ



わからないから聞いてんのに






「…うーん…客観的に見て、やっぱ顔ですかね、キャバやる限り重要なファクターだと思いますし」



「まあ、確かにね。最初のつかみで、顔がいいのはポイント高いだろう。でも顔がいいだけの女はつまらないよ、長くは付き合えないと思う、中身が空っぽだから」



淡々と語る男



へらへら笑いながら、美貌だけを武器にして楽して渡り歩いて行く人に憧れていたが、今気付かされた



可愛いだけのバカは飽きられる


これから歳を取って、40、50になって、しわくちゃの顔になった時、顔だけで売ってきた人は惨めだ



無知は罪だ


情弱は怖い



可愛いだけ、美人だけが許されるのは、本当に若いうちだけなんだから






けれども、それと同時に思う


なんだかんだいって、人って外見だと



だって、外身に惹かれないと中身を知ろうとも思わないでしょ?


キャバなら特に、ファーストインプレッションで好かれなければその後発展する可能性は、さらに少ない



人は見た目じゃなくて中身だよなんて言うやつ、私には偽善者にしか思えない



だって中身なんか、付き合って後からついてくるもんなんだから



私は、人は外見だと思ってるからこそそれが身に染みて感じるんだ

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